
プロとしての矜持とダウンシフトとの葛藤
新しい年を迎えるたびに、プロフェッショナルとして成長するための年間計画を立てたり、先延ばしにしてきた大きな目標に取り組んだりするためのアドバイスであふれ返る。しかし、今年はとてもそういう状況ではないという人もいるだろう。
私のクライアントでも、少なくとも当面は、プロフェッショナルとしての野心的な考えを後退させたいという人が増えている。ギャラップの最近のリポートによると、労働者のストレスは過去最高のレベルに達し、「ウェルビーイングで成功している」労働者は3分の1にすぎない。パンデミックのストレスと、プロフェッショナルとしてさまざまな調整を強いられている現状では、何かを手放さなければならないのだろう。
しかし、キャリアをダウンシフトさせたいという思いは、矛盾する感情を伴いやすく、恥ずかしささえ感じるものだ。実際、ここ数年は多くのプロフェッショナルが倦怠感を覚えているにもかかわらず、会社生活における成功のシナリオは、いまだに一つしかない。一生懸命働いて、昇進し、多くの顧客を獲得して、知名度を上げ、出世の階段を昇ることだ。
その結果、仕事のペースを落とし、顧客からの負担と責任を軽くしたいと思うことは、プロフェッショナルとして危ういと見なされかねない。たとえ1、2年でも顧客にとって無用な存在になるのではないか、忘れられるのではないかと周りも心配する。また、一歩下がろうと考えること自体が、過去の自分に対する裏切りのように感じられるかもしれない。これまで懸命に働いてきて、仕事で常に注目されて新しい仕事が途切れないような地位を築いたのに、その流れを断ち切ろうとしているのだから。
こうした懸念を持つのも無理はない。出産・育児で仕事を離れた女性が復職することについて、経済学者のシルビア・アン・ヒューレットが行った調査によると、空白が短期間でも、休職以前に十分な資格や資質があっても、驚くほどの困難に直面するのだ。男性でも女性でも、どのようなプロフェッショナルでも、サバティカル休暇の後や仕事の強度を下げた後に、再び以前のように仕事に取り組もうとすれば、同じような困難を経験することは容易に想像がつくだろう。
しかし、仕事上のリスクはあるが、燃え尽き症候群や過労の自覚症状があるなら、まず自分が壁にぶつかっている(もしくは、ぶつかりそうである)ことを認識することが重要だ。そこで本稿では、意欲的なプロフェッショナルとしての自分のビジョンと相反する場合でも、自分の野心を後退させたいという気持ちと折り合いをつけるために役立つ、3つの戦略を紹介する。
波状的に考える
著書The Long Game: How to Be a Long-Term Thinker in a Short-Term World(邦訳『ロングゲーム』ディスカヴァー・
その理由は理解できるし、基本的に悪い戦略ではない。ただし、行動を変えるべきタイミングを見極めることができないと、むしろ障害になってしまう。人脈づくりは素晴らしいことだが、たとえば、人前で話すスキルを重視しない状況下で業績評価が下がっている時は、新しい人脈づくりの価値は低くなる。
重要なのは、「波状的に」考えて、別の戦略に注力するタイミングを見極めることだ。これはプロフェッショナルの領域だけでなく、ほかのことにも当てはまる。たとえば、人脈づくりのイベントではなく、話し方講座に時間を割くといったことだ。多くのプロフェッショナルにとって、何年も何十年も仕事に打ち込んできて健康が後回しになっているなら、そこにエネルギーを振り向けるべき時かもしれない。あるいは、私のあるクライアントのように、子どもの問題や仕事以外の趣味に目を向けるタイミングかもしれない。