普遍的なタイムラインはないと認識する
「比較の罠」の危険性は、いまさら言うまでもない。仲間や同僚と自分を比べることによって、自分の進歩をたどりたくなり、集中が削がれる時もある。誰かと比較することは、自分の新しい可能性を見出したり、健全な競争を促したりするなど有用な時もある。しかし、たいていの場合、自責の念に駆られることになる。
「ロブはパートナーになったのに、なぜ私はなれないのだろうか。
「自分は自分、自分のやるべきことをやる」と言われても、口先だけに聞こえるかもしれないが、これは真実である。私が先日、電話で話をしたある同僚は、さまざまなビジネスプロジェクトが思うように進まないことに落胆していた。一方で、彼女の親友でありビジネスパートナーだった人は、数カ月前に急死していた。また、あるクライアントは仕事上の目標を達成するために行動を起こそうとしていた時に、地元が自然災害に襲われた。彼女はほぼフルタイムで救援活動に没頭したが、自分の仕事への影響を心配していた。
周りの誰もが順調に目標を達成しているように見える時は特に、自分がすでに設定している目標を達成したいと思うのは無理もない。しかし、自分に猶予を与え、誰でもタイムラインから脱線するものだと理解しておくこと。いつ、どのような形で脱線するかはわからないが、ほぼすべての人は計画通りにいかないものだ。
ダウンシフトをする必要があるなら、その時間を取ろう。後退だと感じるかもしれない。しかし、より速く、より効果的に前進するために必要なエネルギーと明瞭さを与えてくれるだろう。いまは多くの人がパンデミック後の優先順位や予測を見直しており、充電に最適な時期かもしれない。ほかの時期に比べて、従来のキャリアコースであなたを「追い越す」人は少ないだろうから、終わりのない踏み車から降りることにあまりストレスを感じないかもしれない。
成長するための条件を理解する
成功は量を競うゲームだと思いがちだ。人脈をつくり、提案を出して、会社で奮闘する時間を増やせば、成功につながるというわけだ。ただし、時には、すでに自分を酷使して、従来のやり方で成果を出す能力が落ちている場合は特に、必要なのは「量」ではなく「質」であり、「違い」である。
私は10年近く前に1カ月、仕事を休んだ(その時のことはHBRでも書いた)。長期休暇を取ったこと、そしてその間ほとんど「接続をオフ」
しかし、10年後に振り返ってみると、失った金額はごくわずかで、1カ月間インドを旅した思い出のほうが私にとってはるかに価値がある。そして、短期的にも思いがけない収穫があった。帰国して数日後に、仕事上でやめるべき5つのことについて、HBRで記事を書いた。旅を機に、自分の人生をどのようにしたいかという内省を得たのだ。それが予想外の評判を得て、12月中旬の公開にもかかわらず、その年の最も人気のある記事の一つになった。
1カ月の海外旅行であれ、1年間のめり込んでいたことから離れて他の分野に集中力を向けることであれ、自分に異なるインプットを与えることは、異なるアウトプットを生む。これまでの自己評価の指標では「失敗」かもしれないが、新しい分野でインスピレーションを得たり、将来の自分や他の人にとって意味のある新しいアイデアを引き出したりもできるだろう。
自分は優秀なプロフェッショナルだと思ってきたのに、自分の欲求や行動によってそのアイデンティティが揺らぐことに、居心地の悪さを覚えるかもしれない。しかし、野心をダウンシフトすることは、必ずしも過去を捨てたり、責任を回避したりすることではない。達成感や向上心を持続させるために自分は何が必要なのか、ようやく認識できたということなのかもしれない。
"How to Make Peace with Feeling Less Ambitious," HBR.org, January 09, 2023.