リテンションボーナスで人材流出を防ぐ4つのステップ
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サマリー:リテンションボーナスの導入状況が、過去最高レベルに達しているという。これは従業員を引き留める有効なツールとなるが、実は従業員のエンゲージメントを高めるという証拠がないなど、いくつか注意すべきリスクがあ... もっと見るる。本稿では、リスクに注意しながらも、リテンションボーナスをより効果的に活用するための4つのステップを紹介する。 閉じる

リテンションボーナス導入時に
注意すべきリスク

 リテンションボーナス──決められた期日まで在籍する、あるいは特定の目標を達成した時のインセンティブとして従業員に支給する金銭的報酬──の導入状況は、ワールド・アット・ワークの最近の調査によると、過去最高レベルとなり、回答した組織の約60%が資本を投じているという。

 だが、これは賢い投資なのだろうか。

 コーン・フェリーの報酬専門チームを率いるトム・マクマレンは、典型的なリテンションボーナスについて、重要な役割を担い、優れたパフォーマンスを示している従業員に提示されるものだと語る。M&A(合併・買収)が成立するまで、あるいは重要な全社横断プロジェクトが完了するまで会社に留まってもらうなど、特定のケースで役に立つ。

 さらに、人材市場が活況を呈している時に、従業員を引き留めるための有効なツールにもなる。「このパターンはマクロ経済環境と結びついている」と、『ニューヨーク・タイムズ』紙の上級副社長兼最高人事責任者(CHRO)のジャクリーン・ウェルチは言う。マクマレンも同様に、特定の職種の離職率が高いなど人材を流出させる可能性があるという市場のシグナルを受け取った時に、リテンションボーナスは利用されていると指摘する。

 リモートワークも、リテンションボーナス導入の増加に拍車をかけている要因の一つかもしれない。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経験して、企業文化や仕事上の友好関係が脆弱になり、そのような報酬の必要性が高まっている可能性があるとマクマレンは指摘する。

 ただし、リテンションボーナスには、いくつか注意すべきリスクがある。まず、このような報酬が従業員のエンゲージメントや長期的な忠誠心を高めるという証拠はない。そのため、「(リテンションボーナスを)慎重に利用している」と、バイオ医薬品開発の新興企業であるアイオワンス・バイオセラピューティクス人事担当上級副社長のトレイシー・ウィントンは言う。さらに彼女は「従業員と雇用主の関係を、理想的なパートナーシップとはかけ離れた取引のような関係に変えてしまう」と説明し、同社ではリテンションボーナスを支給した従業員の90%が結局、退職しているという。

 雇用問題に詳しいニューヨークの弁護士ランディ・メイは、「雇用主は従業員の視点を理解しなければならない。(リテンションボーナスの)支払日を過ぎれば、彼らは頭を切り替える。期日が近づいたら転職先を探し始めるだろう」と語る。リテンションボーナスは従業員に、「この日までしか自分は必要とされていない」と思わせるのだ。

 リテンションボーナスやサインオンボーナス(入社支度金)を、人材の獲得や、競合する企業の求人と条件を対等にするために利用する企業もある。ただし、こうした短期的な戦略は、既存の従業員との対立を生む危険があり、給与の公平性に大きな打撃を与えかねない。

 ニュージャージー州を拠点に活動する人事アドバイザーのエリカ・ダンカンは、そのほかリテンションボーナスに反対する理由として、「本質的に、すでに報酬の対象となっている仕事に対して、金銭を支払うことになる」点を挙げている。