4. パブリック・プリンター・テスト

 リテンションボーナスの制度を記した紙を社内のプリンターに置き忘れて、何も知らない従業員が見つけても、公平性を疑われない自信があるか。これがパブリック・プリンター・テストだ。「(対象ではない人も含めて)全従業員に説明しても、理解される戦略でなければならない」と、ウェルチは言う。

 広範囲に導入する際は、プログラムを発信する方法を考える。気に入らない人もいるかもしれないが、社内の噂で知るのではなく、リーダーから説明を聞き、その根拠に納得して信用できれば、従業員はそのリーダーを信頼して尊敬するだろう。

 これについてウェルチは、具体的な例を挙げる。彼女が以前勤めていた会社は、ある職務の人材開発で評判が高かった。しかし、まるで時計仕掛けのように、1年から1年半が経つとクライアントがその人材を引き抜こうとするのだ。

 この職種の離職率は10%から25%に跳ね上がり、会社は人材維持と育成の戦略を立てた。まず、この職務の従業員に、1年後にはクライアントが彼らを引き抜こうとすることを率直に伝えた。そして、社内のキャリアパスや昇進の機会について説明し、留まるべき理由を述べて教育した。可能なら短期間で昇進させた。まだ昇進が難しい従業員には、応急措置としてリテンションボーナスを支給し、次のレベルに上がるために必要なスキルを身につけるインセンティブにした。

 最後に忠告がある。不愉快な人材にカネを払ってまで引き留めないこと。優秀な従業員でも、職場にとって有害な存在で、みずから辞めると脅すような人は、自由に辞めさせよう。どれほど素晴らしい成果を出していても手放そう。「彼らの言いなりになってはいけない」と、ウェルチは言う。ウィントンも管理職に対して「不安をもとに報酬を決めてもうまくいかないと助言している」と語る。

 会社にボーナスを導入する余裕がなくても、重要な従業員にキャリア開発の機会を与え、具体的で前向きな評価を伝えることは可能だ。金銭的な報酬以外にも人材を引き留める方法は数多くある。

 リテンションボーナスは、外科手術のように利用すれば、組織にとって短期で効果の出る経済的な手段になる。ただし、長期的な人材の維持と忠誠心は、必ずしもお金の問題ではない。マネジャーがチームメンバーといかに素晴らしい人間関係を構築するかにかかっている。


"Do Retention Bonuses Pay Off?" HBR.org, February 06, 2023.