離職
給与の透明化は、離職のパターンもつくり上げてしまう。雇用主が給与の透明化を受けて給与を圧縮または平準化し、成果主義でなくなると、トップパフォーマーは高い成果に見合った報酬を払う(そしておそらく高い給与であることを秘密にする)組織を探すため、退社する可能性が高くなる。このように、同じ地域や産業において秘密主義的な組織と透明性の高い組織の両方が存在すると、重大な労働市場の調整が生じる可能性があると考えられる。
従業員の優先順位
最後に考慮すべき要素が一つある。前述のように、給与が透明化すると組織はより一貫して観察可能な成果指標に基づき、給与を決めるようになる。しかし、容易に観察できる成果指標が、他者に対する協力、助力、指導、支援など、仕事の本質的な要素を組み込んでいないとしたらどうか。そうした場合、個人は、透明化によって給与に反映されることが明らかな業績指標に焦点を当てて仕事をするようになる。
給与の透明性に関する最近の研究では、ナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)の選手の給与が突然透明化された時、何が起きたかを調査した。透明化によって選手の給与は、主に攻撃的なパフォーマンス指標(ゴールとアシスト)によって決定され、守備の有効性(測定するのははるかに難しいが、ほぼ同等の重要性を持つパフォーマンスの側面)はあまり重視されないことが明らかになった。
給与とその根拠が透明化されると、選手たちはそのインセンティブに対して予想通りの反応を示した。ゴールやアシストを増やす一方で、守備をおろそかにするようになり、リーグにおける選手の全体的なパフォーマンスが低下したのだ。
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上記の研究結果から、給与の透明化は、それ自体が目的ではなく、変化のためのツールと見なすべきだと筆者らは考える。このツールが生み出す強力なプラスの変化の一つは、給与の公平性の向上だ。しかし、給与の全体的な規模や従業員の離職、生産性といった他の結果に及ぼす影響は、より複雑で微妙なものだ。このような側面から、雇用主と従業員はその影響を理解し、求める成果を生み出すような透明性のタイプを選択しなければならない。
しかし、企業がどのような透明性を導入するか選択するには、責任のある者が、公正で差別のない給与を確立するために必要な改善をすべて行い、そして従業員がそれを確認できるだけの透明性を提供しなければならない。企業が好むと好まざるとにかかわらず、給与を完全に秘密にする時代は終わりつつある。
"Research: The Complicated Effects of Pay Transparency," HBR.org, February 08, 2023.