
共和党政治家らによる
ESG投資への批判が高まる
この1年、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資は、米国の文化戦争に飲み込まれた感がある。共和党の有力政治家らが、ESG投資は投資家が企業に「ウォーク」(woke:意識高い系)イデオロギーを押しつける手段になっていると主張しているのだ。
前副大統領のマイク・ペンスは、演説や論説でESGを厳しく批判してきた。共和党の知事や、共和党が多数派を握る州議会は、ESGに基づき投資銘柄を選定する資産運用会社をボイコットする知事命令や州法を検討している。連邦議会では、上下院のさまざまな委員会が、米国証券取引委員会(SEC)や大手資産運用会社を呼びつけて、ESG投資の合法性を問う公聴会を開くと息巻いている。
本稿の共著者の一人(クラウリー)は共和党を支持してきた弁護士で、もう一人(エクルズ)は民主党を支持してきた経営学の教授だ。そして2人とも、ESG投資が政治化されていることに失望している。ごく最近まで、ESG投資は学者や投資関係者以外で話題になることのほとんどない(重要だが)専門的なテーマだった。今後、議会で開かれるESG関連の公聴会は、事実を記録し、超党派のコンセンサスを構築して、ESGから政治的な情熱を取り除くチャンスだ。公聴会がこうした動きを煽るのではなく、ESGを再び退屈なものにしてくれることを願いたい。
カギは、ESGの狙いを当初の限定的なものに引き戻すことだろう。ESGの狙いとは、企業がESG関連問題により直面する可能性のある重大な長期的リスクを特定し、それを投資家に知らせることだ。海面上昇が起きた時、脆弱となる海辺に資産を持つ企業や、政府が炭素税を導入した場合、収益が大幅に減る可能性が高い企業(化石燃料企業など)などがこれに当たる。したがって、石油・ガス開発企業にとって、温暖化ガス排出量は、大気の質や従業員の健康・安全と同じくらい重大な問題である。
だが、産業別リスクの特定を支援する米サステナビリティ会計基準審議会(SASB)によると、人権や地域社会との関係、そしてビジネスモデルのレジリエンス(再起力)も重大な問題に該当する。なお、非重要課題としては、エネルギー管理、消費者福祉、システムリスク管理などがある。
筆者らがかつて記したように、市場が資本を適切に配分するためには、企業が重大な投資リスクを投資家に開示する必要がある。筆者らに言わせれば、ESGとは、企業の収益性や長期的な株主価値に関わる重大なリスク要因を特定する方法にすぎない。
保守派は、ESGがこの狭い用途を超えて利用され、進歩主義的で政治的なアジェンダを推進しているとすぐに不満を示してくる。ただ、その主張の一部は行きすぎに見えるが、実際に起きている現象を反映している側面もある。実際、多くの著名なリベラル派の人々が、伝統的なESG投資の定義を超えたサステナブル投資を推進したがっているのだ。
たとえば、NGOのフォッシル・フリー・カリフォルニアは、巨大機関投資家であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)とカリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)に対して、化石燃料企業から投資資金を引き上げることを義務づける州法を成立させようと奮闘している。両基金とも昨年、この要求を受け付けず、州法案も成立しなかった。また、取締役に一定数の女性を登用するよう義務づける州法は、最終的に州憲法違反とする判決が下された。化石燃料に投資するかどうか、そして取締役会の多様性を重視するかどうかは、政治家ではなく投資家が決めるべきことだ。
より専門的な側面では、ESGの尺度に、企業がESG問題によって直面するリスクだけでなく、その企業が社会や世界に与える影響も含めるべきかをめぐり、ESGコミュニティ内で議論が起きている。さらに論争の火に油を注いでいるのは、ESGを過剰に主張し、あれこれ偽善的な環境配慮を唱える企業や投資家だ。連邦下院の委員会が公聴会を開いて、ESGの専門家に質問することにより、ESGの本来の重要な目的に議論の焦点を戻してくれることを、筆者らは願っている。