議会公聴会が予定されていると同時に、ESG投資の定義を明確化するのに役立ちそうな法案がある。2022年9月に、マイク・ラウンズ上院議員(サウスダコタ州選出)ら8人の上院議員が提出した「2022年必須重要性要件法案」(Mandatory Materiality Requirement Act of 2022)だ。

 また、関連法案H.R.9408が、2022年12月にビル・ハイゼンガ下院議員(ミシガン州選出)とアンディ・バー下院議員(ケンタッキー州選出)により提出された。両法案の目的は、「1933年証券法を改正して、株式発行者がSECに開示しなければならない情報を、株式発行者に投資する者にとって重要であるもの、および他の目的にとって重要なものに限定すること」だ。

 このように重要性を強調すれば、現在のESG論争における火種、すなわち事業会社の気候関連リスク開示義務に関するSEC規則案をめぐる騒ぎを鎮静化するのにも役立つだろう。筆者らの見解では、このSEC規則案を批判する左派は、「重要な情報」の中心的な概念を無視して、情報開示義務のさらなる拡大を求めている。一方、SEC規則案を批判する右派は、数兆ドルの運用資産を持ち、長期的なリスク調整後リターンを最大化する受託者責任を負う投資家が、企業が気候変動の影響をどのように管理しているかを重要情報と見なす事実を無視している。

 実際、多くの米国企業がすでに気候変動関連の情報開示を行っている。たとえば、気候変動対策に積極的に投資しているエクソンモービルは、現時点では情報開示義務がないにもかかわらず、炭素排出量とその削減目標を開示している。同社は、ダイバーシティ報告書や、ESGを中心にまとめたサステナビリティ報告書も、そのような義務はないにもかかわらず発表している。シェブロンとコノコフィリップスも、これらの情報を開示している。

 米国のESGコンサルティング会社ガバナンス・アンド・アカウンタビリティ・インスティテュートの調査によると、S&P500の96%、ラッセル1000の81%が、こうした報告書を作成している。問題は、財務報告とは異なり、この種の報告書は共通の基準に基づいていないことだ。このため投資家は、内容の妥当性を評価したり、さまざまな企業とパフォーマンスを比較したりできない。ただ、この点は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設置により解決しつつある。ISSBの活動は、SASB(現在はISSBの一部となっている)の作業を活用して、SECと現在の法案により定義される重大情報の基準を策定している。

 今後、ESGはどうなっていくのか、と筆者らはよく聞かれる。短期的には、投資家が重大なリスク要因について情報開示を必要としていることと、派手に展開されている政治問題とを切り離して考えることが重要だ。下院公聴会は、共和党がバイデン政権の政策目標を攻撃し、民主党がそれを擁護するという政治劇になってしまう可能性もあるが、ESGとは何か(そして何でないか)を明らかにする学びの機会になる可能性もある。

 ESGには何ができて、何ができないか。そして何をすべきではないのか。なぜこのようなことが起きるのか。公聴会が「ウォーク」ではなく、「重要性」を中心に構成されれば、そうした学びが可能になるだろう。

 法律が制定されていない以上、議会の役割は、どのリスク要因が投資家にとって重要かをSECが判断し、情報開示の必要性とそれに伴う企業のコストのバランスを取る中で、規則の策定過程を監督することだ。約90年前に議会が策定した財務情報開示の枠組みは、世界的に前例のない最高の資本市場を生み出した。その枠組みを維持・強化することが、民主・共和両党の政策立案者らが最優先すべきことだと、筆者らは信じている。


"Rescuing ESG from the Culture Wars," HBR.org, February 09, 2023.