問題ベースのコーチング
チームリーダーは、問題や課題が発生すると、解決に乗り出す本能を持っている。だが、チームコーチングの場合、
このアプローチをうまく採用している場所の一つが、ジョンズ・ホプキンズ大学メディカル・スクールのオスラー内科研修プログラムだ。ここでは初日から、新米医師が回診をする時「患者経験を自分のものとして受け止める」ことを期待され、同じチームの先輩医師はガイドやコーチの役割を果たす。この手法は、どのチームも採用しなければならない決まりになっている。新米医師が「くさび形の先端」すなわち課題把握の役割を担い、全員が状況を議論して評価し、さまざまな視点を提供し、解決策を提案する。チームで最年長の医師は耳を傾け、メンバーの知識レベルを理解し、質問をし、当然ながら、全員の仮説や決定が健全なものになるようにする。このアプローチを行うには、単に先輩医師が介入して問題を解決するよりも、時間とエネルギーを要するが、学習の加速、自信の向上、チームスピリットの醸成、チームワークの構築など、享受できる恩恵は非常に大きい。
コーチは答えを言わない
2つ目のリーダーシップテクニックは、ソクラテス式問答法に基づく教え方だ。つまり、チームリーダーは答えを示すのではなく、質問を投げかけることで、メンバーの状況理解と問題解決を促す。インサイトを引き出し、思考を方向づける質問の仕方を学ぶには忍耐と訓練が必要だが、リーダーがこのスキルを習得すれば、強力なマネジメントテクニックになる。
このアプローチを採用するリーダーは、あらかじめ質問リストを作成しておくとよいだろう。たとえば以下のようなものだ。「これまでに試した方法は何ですか」「うまくいった方法と、うまくいかなかった方法はどのようなものですか」「この問題をいままでとは違う位置づけにできますか」「データは全部揃っていますか」「この問題についてどのような仮説を立てられますか」」「誰ならうまくやれるでしょうか」「彼女だったらどうやるでしょうか」
こうした質問にチームメンバーが答える様子を見れば、チームがどの程度仕事を理解しているか、そして、追加的なサポートが必要な部分はどこかが即座にわかることが多い。筆者らは、このアプローチを非常にうまく採用した複数のクライアントやエグゼクティブ・リーダーシップチームと仕事をしたことがある。「この手法を使うと、特定の顧客の課題について、より深いチーム学習が可能になるだけでなく、チーム全体が問題をより徹底的に探るようになります。それまで見落としていた間違いや思い込みを発見できる場合があるのです」と、ある大手コンサルティング会社のマネジャーは語った。
成功も失敗も学習の機会にする
このアプローチは、仕事のダイナミクスを一変させる。成功しても失敗しても、チームメンバーは誰かを責めるのではなく、学習する機会であることを理解すると、可能性の限界に挑戦し、思い込みに疑問を投げかけ、物事がうまくいかない時はそれをすすんで認められるようになる。失敗から学習し、軌道修正をしやすくなる。すると、コストをかけずに素早く対処し、より大きなブレークスルーをもたらす。
このアプローチをチームに適用し成功させるためには、全チームメンバーに貢献する機会を与えなければならない。なぜなら、メンバーの中には、他のメンバーが気づかない細部や行動パターンに気づく人がいるからだ。そのような細部や行動パターンは、組織に埋め込まれた思考や行動に埋もれてしまう場合があるため、明らかにするには時間がかかる。したがって、このメッセージのもう一つのカギは、「なぜ」という問いを何度も繰り返すよう、全員に促すことだ。
米軍の特殊部隊は、このアプローチをうまく取り入れている。毎回ミッションが終わると、アフターミッションレビュー(AAR)が行われ、チームメンバーは責任を追及するのではなく、うまくいったことと、いかなかったことをすべて自分の視点で説明する。そして次のミッションまでの間に、プレアクションレビュー(PAR)を行い、前回のAARで学んだことを、どうすれば新しい任務に応用できるかを検討する(AARの詳細については“A Better After-Action Review”を参照のこと)。
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現代のチームは、少ないリソースと、短いサイクルでどのように結果を出すべきかを学ばなくてはいけない。
そのようなチームは、成功と失敗から集団で学び、パフォーマンスを最適化し、変わりゆく要求に素早く対応することを支援するリーダーが必要だ。本稿で紹介してきたチームコーチングの手法を採用するリーダーは、その役割を十分果たせる立場にあり、その過程で、チームの目覚ましいパワーを引き出し、自社のビジネスの差別化に成功するだろう。
"Coaching Your Team as a Collective Makes It Stronger," HBR.org, February 23, 2023.