ソーシャルメディアに投資をしてもブランドは成長しない
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サマリー:かつてSNSマーケティングの黎明期、D2Cブランドは顧客獲得に資金を投入し、効率的にブランドを成長させることができた。現在、SNSでの顧客獲得は競争の激化により効率が低下し、ブランドはSNS登場以前のように再びオ... もっと見るーガニックマーケティングで顧客獲得を実現しなければならない。本稿では、その際に指針となるオーガニックマーケティングをつくり出す4つの「C」について解説する。コンテンツ、消費者、クリエイター、著名人という4要素を用いることで、ブランドの成長、そして成功に近づくことができると説く。 閉じる

SNSでのD2Cブランド訴求は困難

 消費者直接取引型(D2CあるいはDTC)ブランドの黎明期には、企業はメディアに露出して宣伝し、オーガニックマーケティング(広告費用を使わずに検索などで自然にトラフィックを生成するマーケティング手法)を実現するための革新的な戦術を取った。マットレスのオンライン販売会社のキャスパーは、潜在顧客に商品を試してもらうために移動式の寝室「ナップモバイル」をつくった。エアビーアンドビー(当時の名称はエアベッド・アンド・ブレックファスト)は、特製のシリアルボックスをつくって話題を集め、収益を上げた。

 一部のD2C企業は、パッケージを「インスタ映え」するように最適化し、開封する動画を人々が自然に投稿するように仕向けた。しかし、時が経つにつれてこうした手法は一般的になり、関心を持たれなくなったため、新しいブランドが注目を集めるのは難しくなった。

 また、初期の頃には、企業はソーシャルメディア(特にフェイスブック)を効果的に活用して顧客にリーチし、製品の購入を促すことができた。デジタルチャネルによる顧客獲得のコストと効率は価値あるものとなり、投資環境も友好的で、企業は資金を調達してそれを顧客獲得に費やすことができた。しかし、次第に多くの企業がソーシャルメディアに大々的に広告を出すようになり、乱立する広告の中で突出するのが困難になった。

 近年、デジタルチャネルにおける顧客獲得単価(CAC)が上昇し、これらのチャネルは経済的な成長戦略には該当しなくなっている。また、D2Cブランドに対して市場は冷ややかで、資金繰りは厳しくなっている。さらに、プライバシーに関する懸念とアップルのiOS14のアップデートで、フェイスブックの顧客ターゲティングの効果が激減し、デジタル顧客獲得の全体的な効率が低下した。こうした変化により、ブランドは再びオーガニックマーケティングを生み出す方法を模索するようになっている。

 2023年にこうした課題に直面している新規や既存のD2Cブランドは、オーガニックな注目を生み出すマーケティング戦略を立てなければならない。そのために活用できるのが、オーガニックマーケティングをつくり出す4つの「C」だ。

コンテンツ(Content)

 ブランドは、消費者を引きつける魅力的なコンテンツを開発するために、時間と労力を費やさなければならない。D2Cの初期には、面白くてクリエイティブな広告が効果的だった。キャスパーは、従来のマットレス広告とは著しく異なる、魅力的な漫画広告を最初に制作した企業の一つだ。

 高タンパク・低炭水化物のシリアルブランド「マジック・スプーン」は、ブランドの価値を伝える興味深い広告を作成した。ソーシャルメディアの広告コピーで初めて「彼ら」(them)ではなく「私たち」(us)を使ったブランドの一つであり、従来のシリアルに比べてタンパク質が多く、炭水化物が少ないことをアピールした。「ハッブル・コンタクトレンズ」は、ブランドに関する記事や、コンタクトレンズの使用方法に関するクイズなどを掲載した広告で成功を収めた。

 各ブランドは、ブログとハウツー記事の作成に投資し、ウェブサイトへのトラフィックを増やし、自分たちが単なる製品ブランドではなく、そのアイテムを中心としたライフスタイルや体験そのものであることを消費者に知ってもらおうとした。

 2023年、ソーシャルメディアを支配しているのは動画とリールだ。企業はこの新しいメディアに素早く適応し、消費者に最初に想起されるような動画コンテンツを作成しなければならない。何が支持され、流行するかを予測することはできないが、多くのさまざまなアイデアを生み出すことで、勝者になれるかもしれない。

 消費者は信憑性を求めており、洗練された動画にはあまり魅力を感じない。ユーザーの口コミにより拡散する「バイラル」の形で人気を博した動画の一例が、メイクアップアーティストのボビイ・ブラウンが投稿したもので、ブラウンは自身のコスメブランド「ジョーンズロード」の製品を不適切な方法で使った美容インフルエンサーの投稿に、みごとな対応をした。

 シェフのクリスティーナ・トシのベーカリー「ミルクバー」も、新型コロナウイルス感染症のパンデミック初期に、家庭でできるレシピの動画をティックトックに投稿し、成功した。自宅で料理をする人々のニーズをとらえ、ブランドと製品を活用したのだ。

 メキシコ料理チェーンのチポトレは、ティックトック上で「チャレンジ」を開始し、消費者の参加を促して人気を博した。チャレンジの一つは、チポトレの容器のふたを手を使わずにひっくり返し、容器にぴったり乗せるというもので、従業員の1人が始めた。他のブランドも、ティックトック上の既存のチャレンジやトレンドとなっているミームに参加し、自分たちの声を届けたことで、消費者の心に残り、消費者が活動する場所で接点を持つことができた。