デジタル・タレントハブ──システムを連携させて価値を生み出す
CRMとSPMのシステムは連携している場合が多いが、採用のシステムと研修のシステムはほとんどの場合、連携していない。それは主として、採用と研修を担当するのが人事部内の別々のグループになっているからだ。しかし、いくつかの実例で明らかなように、本稿で論じているようなハブを活用すれば、人事関連のプロセスを加速させ、その有効性を高めることができる。それに対し、連携を欠く縦割り型のシステムの下では、一つひとつの課題を完了するまでに、何週間、ことによると何カ月もの期間を要する場合もある。
営業部員の育成プランを改善できる
ハブは、SPMシステムのデータ(営業活動の結果と目標の達成状況)と、CRMシステムのデータ(営業活動の状況)、そしてATSのデータ(営業部員のプロフィール)を関連づけて分析し、LMSに有益なインサイトを提供できる。LMSはそうしたインサイトを生かして、一人ひとりの営業部員に合わせてカスタマイズさせた研修プログラムを用意できる。
営業チームが最も重要な問題に関心を向けるようになる
ハブは、それぞれのシステムがメンバーに向けて自動的に発する注意喚起のあり方を調整し、営業チームを重要課題に集中させる役割も期待できる。法人向けソフトウェアの営業チームを例に考えてみよう。
営業チームの部員には、さまざまな人事関連のシステムからいくつもの注意喚起のメッセージが届く。まず、CRMシステムがAIによるインサイトを通知してくる。「ある顧客企業で、3日以内にソフトウェアの更新があるはずです。これにより、27.1万ドルの売上げを得られる可能性もあります。また、プラットフォーム製品の契約により、取引の規模を拡大する機会が6カ月以内に訪れます」という内容だ。同じ営業部員には、LMSからのメッセージも半自動的に届く。「金曜日の午後2時に開催される『リンクトインを使って成功を手にしよう』のワークショップに登録しましょう」というものだ。SPMのシステムも、自動的にメッセージを送ってくる。「17万ドルの商談成立おめでとうございます。あと2件同様の契約をまとめれば、四半期目標の達成です」。こんな具合だ。
こうした注意喚起を個人ごとにカスタマイズできれば、適切なタイミングで通知が届くようにして、非常に大きな効果を生み出せる可能性がある。いくつものシステムが統合されて、メッセージが理にかなった順序と間隔で示されれば、その効果はひときわ大きくなる。そうすることで、大量のメッセージがほぼ同時に押し寄せ、営業部員が最も緊急性の高いメッセージにしか従わなかったり、ひどい場合には、すべてのメッセージを無視したりする事態が避けられる。上述の例で言えば、長期的な効果を期待する研修より、顧客のソフトウェア更新への対応が優先されることになるだろう。
加えて、システムが連携することにより、一人ひとりの状況に合わせたメッセージを通知しやすくなる。たとえば、高いスキルを持っている営業部員は、目標の達成状況と、顧客のソフトウェア更新と取引拡大の機会についてのメッセージを受け取り、まだスキルの乏しい営業部員は、研修への参加を促すメッセージを受け取るようにすることもできる。
新しい営業職のあり方を実現できる
営業職に求められることがたえず変わり続けるのに伴い、営業人材の採用、オンボーディング、育成、コーチング、流出の阻止、そしてマネジメントの取り組みも変わらざるをえない。
SPMのデータを分析すれば、成果を上げているメンバーがどのようなスキルと能力を持っているかが明らかになる。つまり、どのような人物を採用すべきかというインサイトをリアルタイムで得ることが可能になるのだ。その情報は自動的にATSに供給されて、「リンクトイン・リクルーター」が条件に沿った候補者を探せるようになる。採用が決まったあとは、LMSを活用して新入社員のオンボーディングが行われる。
こうして、営業職にどのような資質を求めるかを判断する段階から、新しい基準に基づいて採用された人たちが働きはじめる段階に進むまでに要する期間は、1年程度から数カ月程度にまで短縮できる。ただし、これを実現するためには、すべてのシステムを連携させ、営業、人事、セールスオペレーションのチームを支援しなくてはならない。
営業部門のダウンサイジングを支援できる
営業部門がダウンサイジングの実行という難しい決定を下す時は、顧客と会社に及ぶ混乱を最小限に抑えつつ、客観的に人事関連の決定を行うことが極めて重要になる。そうしたプロセスは常に痛みを伴うが、さまざまな人事関連のシステムを連携させることにより、プロセスにスピードと公平性をもたらすことができる。
SPM、CRM、人事管理のシステムを連携させれば、営業成績、潜在能力、重要顧客との関係を基準に、誰を残し、誰を辞めさせるかを決定するプロセスに要する時間を短縮できる。また、システムを連携させることにより、自社の営業部員(会社に残る人と去る人の両方)と、混乱に直面する顧客のための移行プランをつくる助けにもなる。
営業人材のマネジメントに関してデジタル化と一元化を目指すうえで有益なツールは多く登場している。たとえば、オラクルは、自社で開発した統合型プラットフォーム「オラクルフュージョンクラウド・ヒューマン・キャピタル・マネジメント」(HCM)を活用して、すべての人材関連のデータを単一の正確な情報源に統合している。これにより、オラクルの社員たち(営業部員も含まれる)は、採用とオンボーディングに始まり、販売実績の管理、キャリア開発、学習に至るまで、あらゆる局面で、統合型のソリューションを利用できている。同様のソリューションは、SAPも提供している。
しかし、ほとんどの企業は、それぞれの分野で最善と見なしたソリューションを別々の業者から導入している。そして、それぞれのソリューションは、営業、セールスオペレーション、IT、人事など、社内の別々の部署がマネジメントしている。これらのシステムを連携させることは、容易ではないかもしれない。しかし、それができれば、非常に大きな恩恵が得られる可能性がある。
デジタル・タレントハブの能力と効果は、時間を経るにつれてますます高まっていく。初期には、人材とそのパフォーマンスに関する情報を把握しやすくすることにより、人材マネジメントの重要なステップに要する時間とコストを減らすこと、そして人材関連の意思決定の質を高めることに主眼が置かれる場合が多い。しかし、さまざまなシステムをより緊密に連携させれば、ゆくゆくは、営業人材マネジメントの市場感知能力を改善し、アジリティを向上させ、会社の戦略との適合性を高めることも可能になるだろう。
"A Digital Talent Hub Can Make Your Sales Team More Agile," HBR.org, February 22, 2023.