
預金保険の対象外にある大口預金者の行動
シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は、米国の銀行システムの脆弱性が過小評価されてきたことを浮き彫りにした。歴史的に、銀行危機の中心を成してきたのは信用リスクだが、今回の信頼性の危機は、安全性の高い有価証券の含み損に預金者が不安を覚えて流動性を求めたことに起因する。こうした証券が流動化(売却)して、評価損が現実化すると、預金者の不安はさらに大きくなり、取り付け騒ぎに発展した。
預金保険にカバーされていれば不安になる必要はまったくないが、今回の危機は、預金保険の対象にならない大口預金者の行動がもたらす影響を浮き彫りにした。彼らが不安になるのは無理もない。その金額は計8兆ドル以上と、米国の預金総額の約40%にも相当するのだ。
今回の危機では、特に際立っていた不安が一つあった。それは、多くの企業が給与の支払いに支障をきたすとみなした点だだ。預金保険の対象とならない大口預金者の一部は法人顧客で、SVBの口座にアクセスできなくなり、従業員に給料を支払えなくなることが明らかになったのだ。
預金保険の対象にならない預金の問題
緊急対策として、米連邦預金保険公社(FDIC)は、預金保険の対象となる預金額の上限を事実上撤廃するとともに、経営難に陥った銀行を金融システム上重要であると宣言して、事態の鎮静化を図った。しかし多くの理由から、この対策には問題がある。新しい法規制がない中で、
この問題をより深く理解し、解決するためには、預金保険の対象にならない預金者のジレンマを把握して、そのニーズにより直接的に対処する必要がある。預金保険の対象とならない預金者を、有利な金利を求めて銀行を渡り歩く無謀なリスクシーカーと揶揄するのは簡単だ。そのような人物は救済に値しないし、同情もされない。だが、現実には、預金保険の対象にならない多くの預金者は、大きなジレンマに陥っている。
民間の給与支払いの問題を考えてみるとよい。米国だけで年間9兆ドル以上の資金の流れを生み出している。巨額の資金が定期的にスムーズに流れるようにしなければならないうえに、その資金が一つの銀行内に置かれて、その決済システムにかけられなくてはいけない。こうした資金は銀行に置いておくしかない。したがって、預金を使って融資をしたり資産を購入したりする銀行のアクションにさらされる。つまり私たちの給料は、巨額の不安定な資金を預かり、それを使ってリスクのある取引をする銀行の判断に利用されている。預金保険の対象額の上限が撤廃されれば、銀行はみずからの損失を社会化することもできる。