「決済専門銀行」を設置すべき理由
預金保険の対象とならない預金の問題は、実のところ、決済システムへのアクセスの問題だ。このシステムは中央銀行が独占しており、それを市中銀行に委託している。給与支払い問題は、その顕著な例だ。というのも、給与支払いのための巨額の資金は、銀行内に留め置かれていなければならず、そこで前述のようなリスクにさらされるからだ。
幸いにも、この問題に解決策を見つけ始めている国がある。英国やオーストラリア、シンガポールは、いずれも革新的な手法を取り入れつつあり、その試みから学ぶこともできるだろう。
現実的な解決策は事実上2つだ。一つは、英国などで認められているように、ノンバンクに決済システムへのアクセスを認めること。もう一つは、「給与問題」の解決のみを目的とする銀行をつくることだ。筆者らは、後者がよいと考えている。
米国は、リスクテイクのインセンティブを歪めることなく、無保険預金の問題を解決するために、支払い処理以外は何もしない「決済専門銀行」(ペイメントバンク)を創設すべきだ。その預金基盤は大規模で、変動する可能性があり、非常に厳しく(マネーマーケット・ファンドよりも厳しく)規制される。また、信用リスクや満期リスクを取ることはできない。つまり、給与振込などのまとまった金額のB2B取引を行い、決済システムへのアクセスを円滑化するのである。
こうした決済専門銀行のビジネスモデルはどのようなものなのか。可能性は2つある。これらの預金を米連邦準備制度(FRS)に預けて、フェデラル・ファンドレート(政策金利)という安全な金利を得る。または、多額の決済を処理するために少額の手数料を顧客から徴収する。巨額の預金を、ごく短期間だけリスクのない形で投資すれば、巨額の収益を上げられるはずだ(現在の金利環境では特にそうだろう)。こうした収益の一部は預金者に還元してもよいだろう。
本稿では、今回のSVBの危機を給与支払いの問題から検討してきたが、決済システムへのアクセスだけが目的で、不安定な巨額の預金を持つ経済主体は数多く存在する。たとえば、年間の売上高が1億ドル、経費が7000万ドルの企業が、決済用に1カ月分の経費相当額を銀行に預けているとしよう。あるいは、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)ファンドが資金を調達したり、企業買収資金を置いておいたりする場合もある。
現在、これらのファンドが決済機能を利用するためには、伝統的な銀行を利用するしかない。まさにこれがSVBと、経営不安が続くファースト・リパブリック・バンクのビジネスモデルだった。だが、どの銀行にもこのような顧客はいる。実際、さらに市場規模が大きいカードベースの商業決済(9兆ドルのカード決済金が商業銀行口座に入ってくる)にも同様の側面がある。
決済専門銀行をつくれば、合理的な預金保険の上限額をはるかに超える不安定な大口預金は、事実上信用リスクや満期リスクを引き受けずに取引を円滑化できる、厳しく規制された銀行という、適切な「居場所」を見つけることができる。さらに重要なのは、銀行システム全体が、このような預金保険の対象とならない大口預金を引き受ける重荷から解放されて、リテール業務や堅実な貸出・資産負債判断といった本来の中核機能に回帰できる。預金保険の上限額を撤廃すると、すべての銀行をシステム上重要に扱うことも避けられる。
ある意味、この解決策は、代替的決済方法となるステーブルコインや中央銀行のデジタル通貨を使って、B2B決済を推進するよりも、はるかに控えめで現実的な努力だ。このアイデアは金融市場のさまざまな決済で採用されている決済・清算の原則を反映している。
現実には、世界金融危機以降、米国の銀行システムのダイナミクスは大幅に低下している。新規参入企業はほとんど存在しない。米国の銀行の数は多くの国に比べれば多いかもしれないが、伝統的な銀行はこれ以上必要はない。必要なのは、これまでとは違うタイプの銀行だ。危機を無駄にしてはいけない。今回のSVB危機は、預金保険の及ばない預金の問題に気づき、その行き場をつくることで、これまでよりもはるかに安全な銀行システムをもたらしてくれるかもしれない。
"How 'Payment Banks' Could Prevent the Next Bank Collapse," HBR.org, March 17, 2023.