学習プロセスを加速する方法を理解してもらう

 ここでは、先に述べた3種類の学習と、新任マネジャーが実際に何を必要としているかを判断するための質問例を紹介しよう。

テクニカルな学習

自問自答すべきこと:
・新任リーダーに、我が社の顧客や製品、システムなどについて迅速に理解してもらうために、どのようなことをすればよいか。
・どのような報告書または製品情報が役に立つか。
・現状を理解してもらうには、どのデータを提供すればよいか。
・現在の重要事項について、インサイトを提供する過去のデータは何か。

実例:
 「新任の副社長が、組織図や財務情報、マーケティング計画にアクセスできるようにする必要があることはわかっていました。しかし、イントラネットでこうした情報にアクセスする方法を学ぶのは難しい場合があります」と、筆者らが調査したリーダーの一人は言った。「そこで新任マネジャーが必要な情報に素早くアクセスできるように、各種リンクをまとめたリストを作成しました」

「我が社は大規模なグローバル組織の一部であるため、データは山のようにあります」と、あるチームメンバーは語った。「新しい最高人事責任者(CHRO)が来た時、これまでの情報で最も重要なものを特定し、主な成功指標を共有しました。また、新任リーダーが自分のチームをより理解できるように、人材や文化、リーダーシップのデータも示しました。彼女はこの情報に感謝し、新しい環境に早く馴染めたと言っていました」

文化の学習

自問自答すべきこと:
・我が社に新しく入ってきたリーダーにとって、役に立つ暗黙のルールは何か。
・意思決定やコラボレーション、協働作業について、どのようなインサイトがあれば、新任リーダーはより迅速に馴染めるか。
・新任リーダーが知っておくべき文化特有の期待やタブーは何か。
・我が社では、どのような略語がよく使われるか。

実例:
 ある新任エグゼクティブは、経営検討会議における文化的な期待や行動を理解していたおかげで、重要なミーティングに向けて十分な準備ができたという。「新しいポジションに就いた時、同僚の一人が私を座らせて、財務について多くの質問を受けることと、数字をきちんと把握していることが期待されていると教えてくれました」と振り返る。「私はもともとエンジニアのため、財務状況とその理由を理解するために、かなりの時間を費やさなければなりませんでした。大変でしたが、この仕事をきちんとこなすための有益なアドバイスでした」

 あるリーダーは、長い歴史を持つ消費財メーカーに入社したが、その文化の中でうまく立ち回るのが難しかったという。「パワーポイントでプレゼンをする時は、会社のブランドカラーを使うことが期待されていました」と彼は振り返る。「でも、私は知りませんでした。その色を使わずに企画案のプレゼンをしたところ、別のリーダーから(そのプレゼンで)私の信用が落ちた、と言われたのです。切り替えるのは簡単でしたが、そのルールを最初に教えてもらえなかったのは痛かったですね」

政治的学習

自問自答すべきこと:
・新任リーダーがなるべく早く会うべき重要ステークホルダーは誰か。また新任リーダーが知っておくと便利なことはあるか。
・新任マネジャーが戦略的イニシアティブを進めるために、協力すべき主要なパートナーは誰か。
・このチームと密接に仕事をしている外部パートナーは誰か。
・同僚やステークホルダーやパートナーに会うタイミングや順番はどのようなものか。

実例:
 あるリーダーの場合、社長のこだわりを知ることが特に役に立ったという。「このチームに加わった時、社長は時間通りに会議を始めることに絶対的なこだわりがあると、ある人が教えてくれました。社長は5分前に来た人を時間通りに来たと見なし、時間ぴったりに来た人は遅刻と見なします。遅刻者には容赦がありませんでした。このインサイトを得られたことはとても役に立ちました」

「10年以上グローバルな組織に在籍しています」と語るあるエグゼクティブは、以下のように振り返る。「本社に昇進して舞い上がるような気持ちでしたが、私は欧州出身だったので、ネットワークも知識も本社の仕組みもわかっていませんでした。新しいポジションに就いた私にサポートの必要はないとみんな思っていたけれど、そうではありませんでした。新人研修のサポートも必要でした。私のコーチは、その環境で成功するために社内でどのような人間関係を構築すべきか見極めるのを助けてくれたのです」

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 多くの企業ではまだ、新任リーダーのサポートに時間を費やしたり、関心を持ったりするケースが少なすぎる。もし、あなたの部署に新しいマネジャーが着任する予定があるなら、彼らが組織、チーム、そして文化について迅速に学ぶのを手助けするにはどうすればよいかを考えよう。

 新任リーダーは、新しい環境に圧倒されている。新しい役割に就くのは難しいことだ。あなたが支援を申し出たり、声をかけたり、仲間に入れて話に耳を傾けたりすれば、学びながら前進しようと奮闘する人の大きな助けになるだろう。


"How to Onboard Your New Boss," HBR.org, February 27, 2023.