共感力を高める10のエクササイズ
バーンアウトを減らし、体系的な調整を行い、定着率を向上させることがますます求められている。そこで、どの業界のマネジャーでもすぐに実践できる10のエクササイズを紹介したい。このエクササイズを通して、人の感情を深く聞き取り、その理解を反映させて、評価やつながり、そしてコミュニティを案内することができる。対面でもバーチャル環境でもできるし、定期的にあるいは必要に応じて行うこともできる。あなたのチームに有効な順序で行ってよい。
1. 評価の一巡
一人が同僚について次のような文を完成させる。そして、次の人に回すか、名乗り出た人に回す。
「ジョン、私があなたについて高く評価していることは……」
行動や特徴をより具体的に詳しく表現できるほどよい。
2. 文章完成のエクササイズ
次のどれか一つの文を完成させる。口頭でも書面でもよい。
「思いやりを示すのが最も難しいのは~の時です」
「昨日~をして、変化を生み出すことができました」
「私が毎日ここに来るのは~だからです」
3. 輪の中に踏み出す
全員で輪になり、言われたことが当てはまる人は一歩前に出る。毎回、元の位置に戻る。
山よりも海辺が好きな人は一歩前に出てください。
この1週間で運動する機会がなかった人は一歩前に出てください。では、この1カ月間そうだった人。この1年間そうだった人。
自分は不十分だと感じる日がある人は一歩前に出てください。では、ほとんどの日がそうだという人。
自分はダメな人間だと悩んでいる人は一歩前に出てください。
漏斗のようなイメージで、浅く表面的な質問から始めて、徐々に弱さに関わる深い質問へと進む。このエクササイズをリモート環境で行う時は、輪の中に踏み出す代わりに手を挙げてもらう。
4. 挙手
孤立は恥と罪悪感を増幅する。どちらも破壊的な力を持つ感情である。他の人々が自分の感情に共感していることがわかると(ここでは挙手)、孤立は解消する。
たとえば次の例を考えてみよう。ある病院の職員が患者の死を別の家族に誤って告げてしまった。その家族は打ちのめされ、嘆き悲しんだ。のちに、伝える家族を間違えたことがわかると、本当の家族を呼び出し、間違いを伝えてしまった最初の家族には事情を説明しなければならなくなった。そして根本原因分析(RCA)が開始された。
RCAでは、苦悩の雰囲気が重く漂っていた。過ちを犯した本人は、自分はダメな職員だと話し、恥を感じていた。誰も何も言わない時間が刻々と過ぎ、ますます重苦しい空気になった。ある人が質問した。この部屋にいる人で、人を癒すために人生を捧げてきたにもかかわらず、患者とその大切な家族を誤って傷つけてしまった時の心の痛みを想像できる人はいるか。もし想像できるなら手を挙げてほしい。すると、全員の手が挙がった。場内は涙に包まれた。
5. 休止の時間
「休止の時間」はジョナサン・バーテルズが死の意味を深めるために考案したものであり、患者が亡くなった際、ベッドサイドで短く口頭で敬意を表す言葉を述べた後、15~30秒間、沈黙の時を持つというものである。
この習慣は、どの業界でも活用できる。職場で事故や銃撃事件が起きた時や、同僚やその家族が亡くなった時、命日などの機会に、亡くなった人とその人が与えた影響を簡潔に述べ、その人を愛した人々に感謝を表し、全員で短い沈黙の時を持つ。重大な事柄をめぐる一貫した儀式は一体感を強める。
6. 個人的なメッセージカード
功績を称えたり、感謝を表したり、喜びや悲しみの出来事に心を寄せたりする時に使えるメッセージカードを、従業員やリーダーに提供する。カードを手にした時の感触や、自筆のカードから伝わる心遣いには不思議な力がある。リモートワークの従業員なら、カードを郵送するか、オンラインで送れるメッセージカードを利用することができるだろう。
7. 創造的なストーリーテリングと感謝
多くの経営者は、打ち合わせや会議、タウンホールミーティングで、顧客や従業員や患者から寄せられた従業員についてのコメントや手紙を読む。従業員にそうした手紙を声に出して読んでもらうと、さらによいだろう。顧客の喜びの声を録音して再生し、感覚的に味わうこともできる。顧客やフォーカスグループに依頼して、スタッフの手製の感謝を表すビデオをつくってもらうのもよい。功績を称えるに当たって、エグゼクティブにその先頭に立ってもらおう。
8. 思いを吐き出すエクササイズ
人は自分の価値観が傷つけられる状況に置かれると精神的苦痛を感じ、それはバーンアウトの一因になる。人が大切にする価値観を観察し見極めるエクササイズは、誰かが動揺している時に共感する能力を高めるのに役立つ。
まず参加者をペアにして、職場や生活でフラストレーションがたまる状況について一人ひとり考えてもらう。次に2分間、ペアで話す時間を取る。話し手はその状況について、攻撃的にならないようにして思いを吐き出す。ここでは以下のルールを守る。
・個人攻撃(共通の同僚など)や不適切な内容は避ける。
・その場を出たら話の内容を口外しない。
・進行役が手を挙げて合図したら、終わりにする。
聞き手は、話し手のどの価値観が脅かされているかを聞き取る。たとえば、顧客に怒鳴られて傷ついたり、怒りや不安を感じたりしているなら、その人が価値を置いているのは尊敬である。会社が安全重視を標榜していながら、人員配置や訓練がおろそかであることに、裏切られたと感じたり絶望したりする人は、誠実さに価値を置いている。プロジェクト関連の重要なエグゼクティブ会議のメンバーではないことに疎外感を覚える人は、インクルージョン(包摂性)を重んじている。
2分経ったらペアの役割を交替する。その後、どのような価値観を聞き取ったかを一人ひとりに尋ねる。このエクササイズを行うと、強い感情に直面した時に集団的な共通基盤を見つけられるようになる。
9. チェックイン
チームのメンバーとチェックインをする簡単な方法が2つある。
・多種多様なものの写真をテーブルの上に置く。たとえば、家族、海岸、きらめく光、自然の小径、迷路、微笑む子ども、庭のベンチ、雲と日没の様子、嵐、大きなダンベルの写真など。全員に1枚を選ばせ、選んだ理由を30秒で説明してもらう。自分に欠けているもの、楽しんでいるもの、気持ち(希望に満ちている、重苦しい、楽しい)や夢について話してくれるかもしれない。まずあなたから始めて、手本を示そう。
・一語で感情をチェックする。「今日はどのような気持ちで来たか、一語で表現してください」
そして、メンバーが体験しているさまざまな感情をただ受け入れる。
10. 感激の瞬間
思いがけない方法で承認を感動的に伝え、よい思い出をつくろう。たとえば誰かが入社する時、その家族にカードを送り、コミュニティの一員になってくれることや、愛する家族を支えてくれることへの感謝を伝える。長年勤めた従業員が退職する時、最終日に車まで一緒に歩いて見送る。狙いは、意味のある方法で特別な気分になってもらうことだ。きっと彼らの記憶に残り、この先何年もあなたのブランドについて語る時には、この思い出に触れるかもしれない。
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個人とチームの両方を励まし、さまざまな感情を認めることによって、より堅固なコミュニティが築かれ、信頼が深まり、人々は自分が気にかけてもらっていることを感じる。先行きの見えない不安な状況が続く中で、こうした形で従業員のエンゲージメントを高めることは、これまで以上に重要である。