
従業員の否定的な感情を理解し認める
パンデミック、経済問題、戦争、分断を煽る政治、仕事の性質の変化、先行き不透明な情勢など、今日の混迷する状況は、すべての人に対してさまざまな感情を呼び起こしている。そうした感情は確実に職場でのエンゲージメントに影響を及ぼしている。ギャラップの調査によると、過去数年間で従業員エンゲージメントは32%にまで低下し、仕事への不満や職場への反感を募らせる従業員は17%に上るという。
この問題に対処しようと、多くの企業が従業員のケアを優先課題にしている。しかし、専門職1000人を対象としたデロイトの調査によると、数々の善意の取り組みは的を射ていない。バーンアウト(燃え尽き症候群)へと駆り立てる最大の要因として、トップリーダーによるサポートや承認の欠如が挙がっているのである。
従業員とつながりを持ち、ケアするのに、シンプルだが大きな効果があるのは、従業員の感情、特に否定的な感情を認めて理解することである。研究では、他者の感情に気づき認めることは信頼の形成に役立つことがわかっている。本稿では、承認が大きな効果を持つ理由を考察するとともに、マネジャーが感情の問題をより意識し、チームメンバーのエンゲージメントを高めるために使える10のエクササイズを紹介する。
承認はなぜ大切なのか
肯定的なフィードバックや承認は、コミュニティのメンバーに自分の価値が認められていると感じさせ、権力と地位による違いを緩和し、すべてのメンバーの帰属意識を向上させる。承認という行為はほとんどコストがかからないにもかかわらず、リーダーや企業はこの手段を十分に活用していない。本稿執筆者の一人であるポラスが著書『Think COMMUNITY「つながり」こそ最強の生存戦略である』(PHP研究所)でエネジー・プロジェクトの創設者兼CEOのトニー・シュワルツと共同で行った2万人以上を対象とする調査では、自分の仕事がマネジャーに認められ評価されていると答えた人は42%にすぎなかった。
私たちは自分の属するコミュニティのメンバーから認められると、より強く絆を感じる。これは、企業のウェルネスに注目するエネジー・プロジェクトが新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前に、ある著名な大病院の心臓外科医と集中治療室の看護師にインタビューした際に、シュワルツが発見したことでもある。その病院では、人員不足や長時間労働、バーンアウトが蔓延していた。シュワルツのチームは数十人の看護師に、職場で最もつらいと思うことは何かと質問した。看護師たちが直面している厳しい要求を踏まえると、おそらく心身の消耗か、疲労から回復したり一息ついたりする時間がほとんどないことだろうと、チームは推測していた。ところが意外なことに、その答えは、献身的に患者を看護しても担当医からあまり評価されていないことだった。
次にシュワルツのチームは、看護師よりもはるかに高給取りだが、困難でストレスの多い状況で働く外科医に話を聞いた。医師らが最もつらいと思うことは何だっただろうか。ここでも意外な答えが返ってきた。最も多かったのは、病院の経営者に評価されていないことだったのである。ある外科医は「毎日、人の命を救っているのに、工場で働いているような気分になることがあります」と言い、数人の同僚も同じ考えだった。
思いやりの文化が重要なのはもっともなことである。称賛を受けると、ウェルビーイングや喜びと関係の深いドーパミンが体内に放出される。また感謝は、する人の気分もされる人の気分も明るくする。人とつながれずに孤独を感じる人が増えているいま、承認は得られにくくなっている一方、承認は関係構築の助けになるため、ますます必要なものとなっている。
ペンシルバニア大学ウォートンスクールのシーガル・
同僚の思いやりを感じている職員は感情疲労が少なく、欠勤も少なく、チームワークが良好で、満足度が高い。その恩恵は患者にも及び、患者は気分が明るくなり、生活の質が向上し、健康状態がよくなり、緊急治療室に行くことが減る。家族の満足度も高くなる。
これが医療業界に特有なことなのかどうかを検証するため、バーセイドらは金融サービスや不動産業など7つの業界の3201人の従業員を調査した。結果は同様だった。互いへのケアや愛情、思いやりを自由に表現する従業員は、企業に対する満足度が高く献身的だった。