感情の自己制御

 感情の自己制御とは、自分の感情を認識し、理解し、マネジメントして、そうした感情を生産的な思考と行動に転換する能力のことである。研究によって一貫して明らかになっている通り、感情を自己制御する能力が高いリーダーほど、自分自身とチームのパフォーマンスが際立って高い。

 感情を自己制御するためには、まず自分の感情的反応の引き金となる要素を理解し、そのような感情的反応を通じて自分という人間について何がわかるのかを知る必要がある。それらの反応は、極めて価値ある情報をもたらしてくれる。

 ごく短期間でもよいので、日記を書いてみてはどうだろう。その日記には、自分の感情的反応が引き出された瞬間について記し、その時の自分の思考、肉体的感覚、行動を描写する。これを1週間くらい続けると、そのような記述の積み重ねを通じて、何らかのパターンが見えてくるだろう。

 この作業を繰り返していると、自分の感情的反応に気づきやすくなる。この段階まで来れば、自分の感情を制御することが可能になる。有害な感情を処理するだけでなく、そうした感情がもたらす不愉快な状態と共存できるようになるのだ。

二元的な認識

 二元的な認識とは、内的環境(経験、思考、感情、反応)についての認識と、外的環境(状況やそこで求められるものを客観的に読み取ること)への認識を統合することだ。特に厳しい重圧にさらされる状況下における自分自身の感情や固定観念、反応のパターンを自覚し、自分がいま直面している状況の本質とすり合わせることが重要なのだ。

 立ち止まって、自分自身と周囲の状況を点検しよう。そうすれば、自分が抱いている真のモチベーションと意図を知ることができるし、それに加えて、その状況で何が求められるのか、自分の行動パターンや傾向がこの状況でどのように役立つのかという点についても理解が深まる。これにより、行動の最中に自分自身を観察し、その時必要とされていることに合わせて反応の仕方を決めることが可能になる。

 ここで、感情の制御が重要な意味を持つ。自分が強い感情を抱く引き金を引く要因を把握し、そこから何を学べるのかを深く理解するほど、その状況で何が求められるのかを冷静に検討できるようになる。「この状況で求められているのは、どのような行動か。この問題に対処するうえで最も役立つ行動は、どのようなものか」という問いを発すること自体が、自分の感情を制御する手立てになりうる。

 自分が置かれた状況を分析することと、その状況で自分がどのような問題に対処しなくてはならないかを分析すること──この2つの作業の間を柔軟に行き来することは、その状況への有効な対応策であるだけでなく、自分がその状況で成功する条件を整えるための効果的な対応でもある。

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 大変革が起きている時期においても、丹念な振り返りを行い、健全な行動パターンを実践し、意識付けを徹底し、しっかりと練習することを通じて、上述の3つのスキルすべてを身につけることができる。

 人が変わることは簡単ではない。大きな変化を遂げることは、ことのほか難しい。人々の変化に対するモチベーションを引き出すために、強力な切迫感を持たせなくてはならない場合も多い。しかし、切迫感を持たせて人々に変化を促すアプローチは、極めて受け身的な環境をつくり出し、学習やイノベーション、そして適応を難しくしかねない。

「計画的な冷静さ」のアプローチは、不確実性の高い時代に成功を収めるために有効な手立てになる可能性がある。これは、一度取り組めば終わりというものではない。学習し、さらに学習し直すことを通じて、適応のパラドックスを克服する必要があるのだ。練習したからといって完璧な状態に到達できるとは限らないが、それ以前よりも進歩できることは間違いない。このアプローチにより、リーダーが創造性豊かになり、イノベーションへの意欲が旺盛になり、柔軟な思考を実践できるようになれば、その組織に及ぶ恩恵は計り知れない。


"How to Become More Adaptable in Challenging Situations," HBR.org. March 03, 2023.