次に、営業チームのメンバーにどのように接するかを考える必要がある。ここで、昔ながらの「アメとムチ」型の手法を実践してもうまくいかない。過去に例のない試練を乗り切るためには、まったく新しいアプローチが必要だからだ。具体的には、現状がどうなっているかを検討し、新しいアイデアを歓迎し、自分がすべての問題の解決策を知っているわけではないと認めることが求められる。

 リーダーがこのような姿勢で臨んだ場合、チームのメンバーはストレスを感じるかもしれない。けれども、ジェフはリアルで明快な現状認識を示すと同時に、いくらかの希望と楽観的な見通しも示すことができる。そして、効果が乏しくなる一方の「代わり映えしない」問題解決策をだらだらと続けるのではなく、メンバーが処罰を恐れることなく、創造性を発揮して、学習できる環境をつくり、新しい問題解決策の発見に貢献するよう促せばよい。

 これでうまくいくという保証はない。それでも、不確実性の高い環境においては、このようなアプローチは旧来のアプローチと比べた場合、新しい問題解決策を生み出し、成功をもたらせる可能性がはるかに高い。

「計画的な冷静さ」には、実際に効果があるのか。効果は確かにある。筆者らはあるグローバルな製薬会社の依頼を受けて、リーダー向けの「計画的な冷静さ」のプログラムを設計したことがある。そのプログラムでは、1450人のリーダーを対象に、12週間にわたり、毎週1回およそ30分間のセッションを行った。そのうえで、プログラム参加者の行動とパフォーマンスにどのような変化が生じたかを数値計測した。具体的には、自己評価と、上司、チームメート、その他の同僚による評価の両方を調べた。

 その結果は、目を見張るものだった。対照群(プログラム参加者と同じ行動や結果を改善するよう求めたが、プログラムには参加させなかった人たち)と比較したところ、プログラム参加者たちは、目標とする行動と成果が3倍以上も改善したのだ。このプログラムで改善を目指した要素としては、リーダー層のパフォーマンス全般、想定外の環境への適応、楽観的思考の実践、共感や思いやりなどの対人関係能力、コラボレーション、チームづくり(心理的安全性の向上など)、新しい知識とスキルの習得などが含まれる。

 加えて、プログラム参加者が感じるウェルビーイングは、対照群の7.5倍に上った。また、参加者に自由回答形式でコメントを求めたところ、仕事だけでなく、私生活でも多くの恩恵があったことが示された。

適応力を高めるために育むべき3つのスキル

 では、具体的にどのようなことから始めればよいのか。「計画的な冷静さ」を養うために重要な要素が3つある。

ラーニングアジリティ(学習機敏性)

 ラーニングアジリティとは、学習経験から学習し、新しい戦術を試し、成長のマインドセット(グロースマインドセット)を持って新しい状況と向き合い、フィードバックを引き出して、その教訓をリアルタイムで新しい環境に適用することである。

 非常に過酷な環境においても、リーダーは常に学習者でなくてはならない。この重要性は、どれほど強調しても強調し足りないほどだ。何十件もの実証研究のメタ分析によると、リーダーのパフォーマンスおよび潜在能力と最も関連性が強い要素は、適応能力とラーニングアジリティだという。

 このスキルを育むためには、たとえば「あらゆる想定外の難しい局面への対応策をあらかじめ決めておくのではなく、好奇心と柔軟な精神を持って、多角的な視点でチャレンジする」という方針を日々再確認するとよい。そうすれば、フィードバックをオープンに受け入れて学ぶことにより、既存の有害な反応のパターンに陥るという自分の反応を避け、適切に調整しやすくなる。