オープンAIとマイクロソフト
まずは、オープンAIとマイクロソフトの提携について理解したい。チャットGPTのベータ版をリリースした時、筆者らはその創造的で人間のような反応に感銘を受けたが、それが行き詰まっていることもわかった。チャットGPTは2021年までに収集された大量のデータに依存
さらに悪いことに、フィードバックループが強固ではない。結果に不満ならユーザーが「サムダウン」
次のステップは、マイクロソフトが保有する膨大なユーザーデータをアルゴリズムに投入することだと筆者らは考えている。エクセルのシート、パワーポイントのプレゼンテーション、ワードの文書、リンクトインの履歴書など、数え切れないほどのデータを消化することで、チャットGPTはそれらの再現に長けていき、オフィスの住人に喜びあるいは恐怖を与えるだろう。
ここでの教訓は少なくとも3つある。
第1に、ユーザーからのフィードバックが重要である。AIがもたらす恩恵は、ユーザーの反応が絶え間なく続くことで大きくなる。アルゴリズムがインテリジェントであり続けるためには、現在のユーザーの選択と過去の提案の評価というデータストリームが必要だ。フィードバックがなければ、どれほど優れたエンジニアリングアルゴリズムでも、賢さを長く維持することはできない。オープンAIが気づいたように、最も洗練されたモデルであっても、常に流れ続けるデータソースとリンクさせる必要があるのだ。AI起業家たちは、このことを忘れてはならない。
第2に、経営者はこれらの効果の恩恵を最大化するために、綿密な情報収集をルーチン化すべきだ。財務や業務の代表的な記録はすべて網羅する必要がある。有用なデータは、企業の内外を問わず、あらゆる場所に存在する。バイヤー、サプライヤー、同僚との交流から得られることもある。たとえば、小売業者は、消費者が何を見て、何をカートに入れ、最終的に何を購入したかを追跡することができる。こうした微細な情報を積み重ねることで、AIシステムの予測を大幅に向上させることができる。
自社のコントロール下にない低頻度のデータも、収集する価値があるかもしれない。天気予報のデータは、グーグルマップの交通量予測に役立っている。採用担当者が履歴書を検索する際に使うキーワードを追跡することで、リンクトインは求職者に成功のヒントを提供することができる。
最後に、意図的であっても、そうでなくても、共有するデータについてすべての関係者が考慮する必要がある。つまり、事実とフィードバックは、より精度の高い予測を構築するために不可欠だ。しかし、あなたのデータの価値が他者に奪われてしまう可能性がある。経営者は、自分たちが共有する(またはアクセスを許可する)データから利益を得るのは誰のAIなのかを考えるべきだ。時には共有を制限することも必要だ。たとえば、ウーバーのドライバーがカーナビアプリ「ウェイズ」(Waze)を使用すると、アプリの所有者であるグーグルがライドヘイリングの利用頻度や長さを推定するのに役立つ。グーグルが自律走行型タクシーの運行を検討するうえで、こうしたデータは非常に貴重なものになる。
アディダスのようなブランドがアマゾン・ドットコムで販売すれば、ブランド(ナイキとの比較など)やカテゴリー(靴など)ごとの需要や、購入者の価格感度を推定することができる。ただ、その結果は競合他社に提供されたり、アマゾンのプライベートブランドに利益をもたしたりする可能性もある。
その対処として、プラットフォームの仲介業者やサードパーティを回避することや、データへのアクセスについて交渉することができる。顧客との直接的なコンタクトを維持するよう努力することもできる。場合によっては、銀行業界が信用度に関するデータを共有する方法を確立したように、データ所有者が結束してともにデータ交換をすることが最善の解決策かもしれない。
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AIネットワーク効果について考えると、この技術の将来性をより理解することができる。また、他のネットワーク効果と同様に、この効果は富める者をさらに富ませる傾向があることも理解できる。AIの背後にある力学が意味することは、先行者は多大な利益を得ることができ、後発者はどれだけ早くても傍観者になる可能性があることだ。
また、AIのアルゴリズムとデータの流れにアクセスすれば、優位性が蓄積されていき、簡単に追い抜かれることはないことも示されている。経営者、起業家、政策立案者、その他すべての人にとって、AIがもたらす最高の(そして最悪の)ものは、これからやってくる。
"How Network Effects Make AI Smarter," HBR.org, March 14, 2023.