営業の成功、インセンティブ、マネジメントを再定義する

 成功している営業担当者とはどのような人かと質問したら、予想できる答えは「販売目標を常に達成する、または超える人」だろう。たしかに、成功している営業担当者は販売目標を達成する。しかし、もはやそれだけで十分とはいえない。

 今日、成功について何よりも重視されるのは、格別に優れた顧客体験と価値を買い手に提供することである。最も優秀な営業担当者は、買い手のニーズと好みをよりよく理解するために、専門家やバーチャルチャネルおよびデジタルチャネルなどの多様なリソースを活用し、相互の価値を提供するソリューションを構築し、信頼とロイヤルティに基づく長期的関係を形成する。

 伝統的な営業インセンティブのプランや営業マネジメントの慣行では、販売目標の達成と個人への大きなインセンティブを特に重視する。しかし、それは営業における成功の新しい定義とは相容れない。売り手は従来の販売報酬プランを見直して、営業担当者を導き、モチベーションを与える別の方法を重視し始めている。

 筆者らは、将来の営業インセンティブのプランは、会社と顧客が長期的に競争力を高め繁栄するための協力を促す、マネジメントのボーナスプランのようなものになると予想している。営業担当者の成功の指標は、販売地域における四半期の売上げなど、個人の短期的成果にはあまり重点を置かなくなるだろう。むしろ、営業の成功の指標は、長期的な企業とチームの業績や、顧客の成功を反映するものになるのではないだろうか。

 さらに営業マネジメントは、よりバランスの取れたアプローチを取るようになり、インセンティブは営業担当者を導き、モチベーションや報酬を与えるための一手段にすぎなくなると考えられる。新しい営業の役割と成功の意味は、業績管理やコーチング、研修、セールスイネーブルメント(営業活動の改善の取り組み)などのアプローチを見直すことにより、強化されるだろう。これらはすべて、より顧客中心の営業文化、よりよい顧客体験、より持続可能な長期的成果を創出することに焦点を当てるものである。

絶え間ない変化とともに生きる

 目まぐるしい変化によって、営業担当者を起点とする組織は新たな要求を突き付けられている。昨日は初心者だった顧客が、今日は専門家である。昨日の商品が明日には時代遅れになるかもしれない。デジタルツールはよりスマートに、より没入的になっている。いま必要なのは、営業担当者とデジタルツールが共存し、たえず役割とリズムを微調整することだ。顧客が期待するのは、最低でもそれ以上のものである。

 この絶え間なく変化する環境においては、3つの役割が営業組織に不可欠だ。すなわち営業マネジャー、バウンダリー・スパナー(境界をつなぐ人)、そしてアーリーエクスペリエンスチーム(EET:初期経験チーム)である。

営業マネジャー 彼らの中心的な役割は、営業担当者を率いて、コーチし、モチベーションを与え、監督することである。複雑な営業では、営業マネジャーも顧客に関わる。いまや、デジタルチャネルも販売チャネルの一つであり、営業マネジャーは新しい形で顧客体験に貢献する。たとえば、デジタルチャネルと人的販売のチャネルを調整し、営業チームの協働を促し、営業担当者が顧客に価値をもたらすためにデータやテクノロジーを活用するのをサポートする。さらに、マネジャーは変化を広めるのにキーマン的な役割を果たす。マネジャーは営業担当者の変化をサポートしながら、自分自身も新しい役割とマインドセットを受け入れなければならない。説明責任をトップダウンで転嫁するような環境で育った人や、自身がデジタル化に躊躇している人にとっては、非常に大きな役割の変更である。

バウンダリー・スパナー デジタルチャネルと営業担当者の連結を設計し発展させることは、けっして些細な仕事ではない。人的販売とテクノロジーの両方を理解する人(筆者らは「バウンダリー・スパナー」と呼ぶ)は、営業組織がこの過程を切り抜けるうえで重要な役割を担う。こうした試みは下手をすると、たちまち責任のなすり付け合いに陥ってしまう。かたやテクノロジー部門のリーダーは「営業担当者が活動データを共有してくれない」と言い、かたや営業担当者は「私のほうが顧客をわかっているのに、システムが別のことをやれと言うので、フラストレーションがたまる」と訴える。バウンダリー・スパナーは、デジタルを営業に取り入れるために必要不可欠である。しかしおそらくさらに重要なのは、ソリューションが適切に設計され、効果的に実施できるように、営業をデジタルに取り入れることである。

アーリーエクスペリエンスチーム(EET) 今日の急速に変化する状況では、新たに実験すべきものや適応すべきものが続々と出てくる。営業組織は、EETの活用が特に有用であることに気づきつつある。EETとはコントロールされた環境で新しいツールやアプローチを試行するユーザーの小集団である。EETのメンバーは有用性や機能性、全般的な体験についてフィードバックをする。このフィードバックは、よりよい導入やインパクトの向上のために調整すべき点を発見する手掛かりになる。EETのメンバーは社内アドボケイト(推奨する人)の役割を果たし、営業部隊が新しいアプローチの導入を支持するように手助けすることもできる。またEETのメンバーはエバンジェリスト(布教する人)にもなる。営業担当者は、導入の価値やインパクトについては同僚を信頼する傾向があるからである。

 マイクロソフトのような企業は、あらゆる規模の顧客や取引に対処している。利用する販売チャネルは、セルフサービスのウェブサイトから、インサイドセールス(内勤営業)やフィールドセールス(外勤営業)まで多岐にわたり、最大規模の顧客にはキー・アカウントチームが対応する。それ以外の企業もこれらのチャネルの一部、またはすべてを利用している。

 営業のシステムと文化の必要な変更を最もたやすく実行できるのは、デジタルのプロンプト(動作をするように促すもの)を用いて顧客との会話を導くことに慣れているインサイドセールスの営業担当者である。キー・アカウントマネジャーとそのチームも、すでにリソースを統合して確実に顧客関係をコントロールしているので、こうした変更に難なく適応できる。この変更にひるんで困難を覚え混乱するのは、その中間にいるフィールドセールスの営業担当者である。彼らはデジタルチャネルのせいで力を失うように感じるかもしれない。勝利を収める売り手は、説得力のある顧客体験の創出のために、競合他社よりも早く、障壁を崩すことに取りかかる企業だろう。


"B2B Sales Culture Must Change to Make the Most of Digital Tools" HBR.org, March 15, 2023.