服装、メールの署名、食べ物の好みといった非常に些細な選択でさえ、アイデンティティの中心的な側面を明らかにする。

 マーケターの間では以前から知られていることだが、ペプシかコカ・コーラ、ナイキかアディダス、マックかウィンドウズ、どちらを選択するかは機能的あるいは合理的な理由に基づくのではなく、ブランドへの共感に基づく。そしてその共感は、ブランドの個性に対する私たちの解釈に基づいている。

 あるブランドが自分の個性に似ていると思うほど、そのブランドに「フィット」し、引き寄せられる。重要なのは、あなたが感じるブランドとの類似性は、完全に主観的または願望的なものである可能性があることだ(たとえば、マックを好むのは、その人がクールでクリエイティブだからではなく、そう見られたいからだ。コカ・コーラよりもペプシが好きなのは、人と逆の行動を取る反抗的な人だからではなく、そうありたいと思うからだ)。このように、ブランドや製品は、私たちが「理想の自分」になるのを助け、自分に対して抱くイメージを高める。

 したがってAIの本領は、「自分がどう見られたいか」と「ブランドや商品の選択が自分についての何を示すのか」が一致している(あるい外れている)ことを気づかせる点にある。たとえば、「Xを買ったりYを見たりする消費者は、Xの価値観やYの性格を持っている傾向がある」という具合だ。実際、ナタリー・ナハイが最新刊Business UnusualKogan Page, 2021.(未訳)で論じているように、消費者は極めて熱心に道徳的、政治的志向を含むブランドの評判に基づいて選択しようと努める。

 嗜好と性格特性との間には、信頼できる体系的なつながりがある。

 この法則に例外はほとんどなく、人間の性格特性と製品嗜好の相関関係を挙げれば、要約することさえできないほど膨大になる。たとえば、音楽の選択には、あなたがどれだけ外向的で、好奇心旺盛で、神経質かが表れる。映画の選択には、あなたがどれだけ知的で、良心的で、好感が持てるかが表れる。フェイスブックのデータを見れば、保守的かリベラルか、社交的か内向的か、楽観的か悲観的かがわかり、ツイッターの投稿を見れば自己陶酔的かそうでないかがわかる。

 重要なことは、日々の行動パターンから根底にある自分のニーズや気分、モチベーションをいかに読み取れるかを定期的にフィードバックしてくれるリアルタイムのコーチとしてAIを活用できるという点だ。ウェアラブル機器が生理的な信号を、体の健康、エネルギー、眠気、ストレスレベルについての実用的なフィードバックに変換するように、AIは私たちの習慣の変化パターンを検知して、ネガティブまたはポジティブな感情や好奇心、攻撃性の高まりを警告することができる。

 ブランドと消費者は、消費者の個性を理解するで相互に利益を得る。

 これは1950年代に急速に関心が高まったもので、マーケティングキャンペーンは、フォーカスグループや電話調査に基づき、製品やサービスを改善する目的で顧客を「サイコグラフィックス」(心理学属性)でセグメント化するようになった。AIを使えば、これをさらに詳細かつパーソナライズなものにして、リアルタイムに更新できる。結果的に、ブランドと消費者の結びつきを強化することができるはずだ。

 ブランドは、提供することを約束する。何を提供するのかといえば、人々が望むもの、必要とするものである。そのためには、ブランドは「その人はどのような人か」を理解する必要がある。そして、そのプロセスに必要なものはすでに存在する。消費者の行動に関する膨大なデータと、そのデータをインサイトに変換するAI機能だ。

 重要なことは、ブランドがこの理解を消費者と共有することで、倫理的な評判と信頼性を高められるという点である。消費者をよく知ることと、消費者が自分自身をよく知る手助けをすることは、倫理的で透明性のある方法で行われれば矛盾しないと、消費者を説得するのだ。

 データはコモディティ化したが、データから得られるインサイトや利益は一部の巨大なテック企業がほぼ独占している。そのような現代において、消費者の信頼とロイヤルティを得るための最善の方法は、貴重なインサイトを消費者に還元することだろう。このインサイトを通して消費者はより賢明でよりよい顧客となり、同時に自分自身への理解をより深められるのである。


"Should You Share AI-Driven Customer Insights with Your Customers?" HBR.org, March 23, 2023.