1. 仕事上のアイデンティティを確立する
まず、ジョブクラフティング(仕事をより充実させるために自分のポジションを積極的に工夫すること)を実践している人は、たとえ選ばなかったキャリアパスに憧れを抱いていても、仕事から離脱することが少なく、同僚を助ける傾向があることがわかった。職種によって柔軟性は異なるが、自分の情熱や関心をもっと現在の仕事へ向ける方法が必ず見つかるはずだ。
たとえば、かつて獣医になろうと考えていたソーシャルワーカーは、介助動物によってトラウマに苦しむ人々を助けることができれば、自分の動物への愛情を仕事に反映させることができる。同じように、旅行ライターのキャリアを断念した営業マンが、海外顧客との取引に進出することで、安定した高収入のキャリアによる恩恵を受けながら、旅行欲を満たせるかもしれない。自分の仕事の楽しい部分と、自分のアイデンティティでまだ満たされていない部分を見つめてみると、自分に本当に合った役割をつくり出すことができる。
同時に、マネジャーは部下たちの隠れた才能や関心、情熱を知ることに努めて、そのアイデンティティの一部を活かすクリエイティブな方法を見つける努力をすべきだ。すべての仕事が、すべての希望をかなえるようにアレンジできるわけではないが、それぞれの従業員が最もやりがいを感じられるタイプの仕事に基づき、ポジションを調整したり、プロジェクトを任せたりする努力をすれば、彼らの生産性と仕事に対する満足度を高めることができる。
もちろん、この種のパーソナライズされたジョブクラフティングをサポートするのは難しいことがある。だが、マネジャーにとっては、優秀な従業員が仕事に満足し、
2. 「内的統制の所在」を育む
第2に、筆者らの研究では、外的な環境が変わらなくても内的な視点を変えれば、気分や行動に大きな違いを生み出せることがわかった。心理学者が「内的ローカス・オブ・コントロール」(LOC:統制の所在)と呼ぶ、自分の人生に起こることは自分にはどうしようもないことではなく、自分のアクションの結果だと見なす人は、選択しなかったキャリアへの憧れに対して、離脱や無関心など破壊的な反応を示すのではなく、現在の仕事を工夫して生産的に反応する可能性が高い。
内的ローカス・オブ・コントロールを養うためには、まず自分のこれまでの仕事上の選択に当事者意識を持つ必要がある。あちらを選んだらどうなっていただろうと考えるのではなく、なぜそれを選ばない決断を下したのか思い出そう。そして、今後できることや、そこに達するためにこれからできることにエネルギーを向けよう。
また、自分の人生のよいことすべてについて、よく考える時間を持つことも有効だ。感謝は逆境を乗り越え、心身の健康を改善することが、多くの研究からわかっている。感謝の日記をつけたり、人生で誰かに感謝の気持ちを伝えることに、毎日数分費やしてみてはどうだろう。これは、不健全な職場環境を受け入れたり、自分の夢を押し殺したりするという意味ではない。ただ、少しばかりの感謝の気持ちを持てば、自分の経験を見つめ直し、自分を幸せにしてくれる人生やキャリアの側面にもっと目を向けられるようになるだろう。
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「あの時、違う選択をしていたら、どうなっていただろう」と考えあぐねるのは自然なことだ。だが、仕事でも人生でも「もしも~だったら」という思考と、自分の目の前にあることへの気づきのバランスを取ることが、生産性を維持して充実感を得る唯一の方法だ。無限の可能性があるこの世界で、自分が選ばなかった過去への思いを克服して、自分の人生を改善して、究極的には現実を受け入れる方法を学ぶために私たちは努力しなければならない。
"Are You Hung Up on That Career Path You Didn't Choose?" HBR.org, March 24, 2023.