よいアイデアだけでなく、多くのアイデアを出す
スタンフォード大学の伝説の教授ロバート・マッキムは、数え切れないほどのイノベーションとイノベーターを世に送り出している。学生が新しいコンセプトについて意見を求めると、マッキムは決まってこう返す。「3つ見せてほしい」。選択肢がしばしば突破口になると知っているからだ。
グーグルの「ムーンショット工場」であるXのCEOアストロ・
リーダーシップ戦略コーチのデビッド・ノーブルとハーバード大学医学大学院の助教授であるキャロル・
筆者らの学生やクライアントも「アイデアのノルマ」に大きな価値を見出している。これは「正しい」答えにしがみつくのではなく、問題を解決するために多くの選択肢を意図的に生み出すというアプローチだ。
あるシンガポール人のエグゼクティブは、「最初の4つか5つはなかなかアイデアが出てこないけれど、『ルールに従う必要はない』ことを思い出す」と語っている。「何かルールに反することを考えようと自分に言い聞かせる」と、
ビジネスで直面するやっかいな問題を解決しようとしているチームに対して、リーダーが投げかける最も的確な質問の一つは、「ほかに何を試していますか」だ。これは選択肢の必要性を思い出させるとともに、気軽に進めてみてよいと背中を押すことになる。
失敗の余地をつくる
「失敗」は誰でも怖い。そして、失敗が許されない場合があることも確かだ。ただし、すべてにおいて失敗が受け入れられないという意味ではけっしてない。筆者らはリーダーに、失敗が許容されるだけでなく、むしろ奨励される場面を設けるように助言している。
筆者らの友人であり、長年の協力者であるフィリップ・バローは、ミシュランのカスタマー・イノベーション・ラボラトリーのリーダーとして、イノベーション部門に失敗の最小しきい値を設定している。「事前確率を見れば突破できる確率は極めて低く、つまり多くの失敗をするということだ。そこで、チームに失敗の目標を設定する。一定の基準以上の失敗をしていなければ、十分に試していないと考えられる。失敗していないということはつまり、失敗したということだ」
もちろん、安全策を講じなければならない場面もある。しかし、リスクを取らないことが最もリスクの高い行動になる時もある。
「スケジュール・テトリス」をやめる
ほとんどのチームは、筆者らが「スケジュール・テトリス」と呼ぶゲームを効果的に行っている。すべての会議の予定を確保するゲームを行っているかのように、あらゆるすき間に会議のリクエストを詰め込むのだ。一方、イノベーションを求められた人々が最もよく繰り返す不満の一つは、「時間がない」というものだ。
先見の明のあるリーダーは、何の予定も入れない時間をあらかじめ確保する。ジェフ・ベゾスはインターネットを探索して新しい機会を見つけるために、週2日間、予定を入れないことで知られていた。アマゾン・ドットコムの時価総額が、当時主要な競争相手と言われていた大手書店チェーンのバーンズ&ノーブルの17倍だった時期も、この習慣を守っていた。
よほど特殊な業界でない限り、あなたのチームは来週も、来月も、来年も、問題に直面するだろう。これらの問題を解決するには、大量のソリューションを生成し、最善の道筋に関する貴重なデータを生み出すような実験を行う余裕が必要になる。テトリスのブロックが予定表のスペースを奪い合う前に、いますぐその時間を確保しよう。
前もって時間を確保していなければ、いざ危機が訪れた瞬間に、チームが「イノベーションを起こす時間がない」と言い出しても不思議ではない。小さな変化が大きな影響を生み出すこともある。アイルランドのあるIT企業のエグゼクティブは、筆者らが教えた新しいイノベーションの手法を試す時間がないと嘆いていた。「いまは水曜日の午前中で、今週に入ってから32番目の会議がある」と。
そこで彼女に、未来の自分にささやかな贈り物をすることを提案した。「カレンダーを見て、次に空いている日を確認してみてください。2週間先かもしれない。そこに『探索の時間』という新しいイベントをブッキングするのです」
1カ月後、彼女は別人になっていた。「カレンダーがあるから新しいことができないのだと、ずっと思っていた。カレンダーをうまく使って、違う働き方をするためのスペースを確保できるなんて想像もしなかった」
本物の変化をもたらすための活動スペースをつくることができるかどうかは、自分次第だ。そのことに気づいた彼女は解放された。チームでイノベーションを成功させるためには、いずれ必要になるとわかっている中核的な活動のための時間を確保しよう。問題が発生して、解決には斬新な発想が必要だと明らかになる前に、である。