生成AIは仕事を奪い去るのではなく、人間の力を拡張する
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サマリー:導入と進化が同時に進む生成AIを、企業はどのように取り込むべきか。本稿では仕事を分類し、生成AIを効果的に使用すべき分野を見極めることの重要性を説く。人間のタスク、自動化されるタスク、強化されるタスク、新... もっと見るたに生まれるタスクを、企業特有の事業の状況、文脈に照らして最も効果的に組み合わせることが必要だ。 閉じる

人間は付加価値の高いタスクを実行する

 チャットGPTなどの生成AI(人工知能)は、人間とコンピュータの関わり方に破壊的変化をもたらし、情報検索のあり方を変え、さまざまな産業で仕事を変容させる可能性がある。この事態に多くの企業リーダーは困惑している。

 人工知能(AI)分野におけるほかの飛躍的進歩と同じように、チャットGPTや同類の大規模言語モデル(LLM)も、仕事への影響と、企業がそれらをいかに生産的かつ責任ある形で活用できるかについて、大きな疑問を提起している。

 筆者らの考えでは、先進企業は人間の仕事を自動化によってなくそうとすべきではない。また、よく知られている生成AIの欠点が解決するまで、慎重に傍観していてもならない。それよりも、生成AIの活用が効果的となる分野で、より戦略的な方針を取るべきである。

 まずは仕事を、基本的なタスク群に分解してみよう。次に、生成AIの導入が個々のタスクにどう影響しうるかを判断しよう。すると、筆者らの研究の結果と同様に、仕事への最終的な影響として人間のタスクが新たに複数生まれることに気づくはずだ。その多くは、より付加価値が高いものになる。

仕事をタスクに分類する

 ほぼすべての業界で不可欠な活動である顧客サービスは、生成AIによって人間の仕事がなくなるのではなく、いかに強化するのかを如実に示す好例だ。

 筆者らは、顧客サービス担当者の仕事の大部分は13の既存のタスクに分解できることを発見した。そして、生成AIの導入がこれら個々のタスクにどう影響しうるのかを分析した。

 このうち4つのタスクは、変わることなく、全面的に人間が遂行できる。別の4つは完全に自動化できる。5つのタスクは、人間の仕事をより効果的にするために強化できる。そして新たな、付加価値の高いタスクが5つ生まれる。

 人間のタスク、自動化されるタスク、強化されるタスク、新たに生まれるタスク。これらが新しいタスク群の構成要素だ。企業が生成AIによって最大の優位を得るには、これらを中心に仕事を再設計すべきである。

 人間の4つのタスク、つまり生成AIの影響を受けず、すべてが顧客サービス担当者によって遂行されるタスクに含まれるのは、顧客対応環境の整備や、組織の運営、活動、手順の指揮などだ。

 完全かつ効果的に自動化できる4つの顧客サービスタスクには、製品やサービスの価格決定、支払金の回収といった、反復的で体系化された業務が含まれる。

 5つの強化される顧客サービスタスクは、顧客サービス担当者と生成AIの協働を軸に再構築する必要がある。ここに含まれるのは、顧客が抱える問題や問い合わせへの対応、利用者やクライアントや顧客への情報提供、製品やサービスのプロモーションなどだ。

 メディアの論調とは反対に、生成AIは、顧客サービスを含めて特定の職種を消滅させることにはならない。自動化の理想的な目的は、新たな方法によるタスクの遂行と、より付加価値の高い新たなタスクの遂行を可能にするために、人間の潜在能力を解放することである。

 筆者らは著書Human + Machine, Harvard Business Review Press, 2018.(邦訳『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』東洋経済新報社、2018年)の中で、先進企業が人間を置き換えるためではなく、人間の能力を拡張するためにAIをどう使っているのかを詳述している。人間と機械の協働による効果を活かすための、より創造的な方法を企業が見出すにつれて、生成AIの利用が後押しされるはずだ。

 たとえば、生成AIの能力によって、顧客サービス担当者が大量の情報をすぐに入手、利用できるようになれば、チャットボット単体や、定められたスクリプトに従うだけの担当者に比べ、顧客の問題をより綿密かつ迅速に解決する処理能力が大幅に高まる。

 ただし対話型AIは、一見もっともらしく思えるが不正確、無関係または意味不明な回答をすることが時々ある。このため、やり取りのプロセスに人間が留まり、機械からの提案や情報の正確性と信頼性を担保しなくてはならない。

人間の専門知識を重視する

 企業は顧客サービスにおける人間のタスク、自動化されるタスク、強化されるタスクを創造的に組み合わせることで、創意に欠ける競合他社よりも優位に立つことができる。ただし、生成AIの能力を十分に活用するためには、人間にしかできないことに重きを置いた、これまでにない新たなタスクを顧客サービス担当者が行う必要がある。

 これは、筆者らの最新著書Radically Human, Harvard Business Review Press, 2022.(邦訳『RADICALLY HUMAN ラディカリー・ヒューマン』東洋経済新報社、2022年)でも研究結果として紹介している。パンデミックの圧力で加速したAIへの最新のアプローチによって、新たなテクノロジーのエコシステムにおける人間の役割に関する考え方が一変しつつある状況を、本書では詳述している。人々はインテリジェントな機械に支配されるのではなく、いまや人間の経験、認識、専門知識に基づいて機械を指導しているのだ。

 実際、チャットGPTとその先行モデルは、「人間のフィードバックからの強化学習」(RLHF)と呼ばれる手法で訓練されている。開発者らは、ユーザーがオンラインでどのように使用しているかに基づいて チャットGPTの改良を続けている。

 開発者の一人は『MITテクノロジーレビュー』誌でこう語った。「これがチャットGPTの成功の秘訣です。何でも好きなことを吐き出す傾向を持つ大規模言語モデルに、どのような回答が実際に人間のユーザーに好まれるのかを教えることでチューニングをする、というのが基本的なアイデアです」

 顧客サービスの分野では、人間の指導を受けた生成AIの登場によって、判断や洞察、道徳的推論、イノベーションといった高次の認知作業が新たに求められる。スクリプトに従ったり、より知識の豊富なほかの担当者に引き継いだりするのとは大いに異なるタスクだ。

 こうした高次の仕事の大部分は、生成AI自体のパフォーマンスの維持、監視、改善に主眼を置くことになる。顧客サービス担当者は、AIシステムの使用とそのパフォーマンスの検証を同時に行う中で、常に注意深くあらねばならない。なぜなら、これらの活動は高次ゆえに、個別のタスクというよりは継続的な任務であり、高度の感受性、新たな行動様式、洞察が求められるからだ。

 筆者らの分析では、今後の顧客サービス職に取り入れるべき新たなタスクが少なくとも5つ見出された。