継続的な改善を追求する
生成AIは急激に進化しているため、顧客サービスを担う組織は継続的に、より効果的な新しい利用法を見つけていく必要がある。これは開発者側だけの仕事ではなく、何が有効で何がうまくいっていないのか、どこに改善の余地があるのかを直接知っている顧客サービス担当者にも求められるタスクだ。
セルフサービス、自動応答、パーソナライゼーションなどの分野で、彼らの知見と経験は極めて貴重となるだろう。顧客サービス組織のリーダーは、彼らに意見を提供してもらう経路やプロセスを設ける必要がある。
システムと顧客との整合性を確保する
生成AI主導のシステムは、人間の意図を正しく判断しているのか、顧客の解決したい問題を解決しているのか、それを顧客の価値観に沿った形で遂行しているのか。これらを判定することは、人間の継続的なタスクとなる。
顧客サービス担当者に求められるのは、これらの観点から顧客とのやり取りを検証する能力を身につけ、機械からのアウトプットが顧客の求めるものと整合しているかを継続的に確認し、不整合があれば報告する手段を持つことだ。
顧客とのやり取りに用いるアバターをテストし検証する
対話型AIのアバターで人間の特徴と性質を再現すれば、ユーザーと親密な関係を築くうえで役立つかもしれない。ただし顧客サービス担当者は、それらの表現に伴う数々のリスクを継続的に監視して検証しなくてはならない。たとえば、アバターの外見、性別や声のトーンに込められた無意識の偏見などである。
検証対象はたえず変化するものであり、
データプライバシーを監視し、データのバイアスを最小限に抑える
自社がどれほどの量のデータを収集しているのか、その使用を通じてAIシステムのバイアスを再現していないかどうかに、企業は常に留意すべきである。顧客サービス担当者は、データプライバシーの問題を見つけて迅速に上司の指示を仰ぐ方法を学ぶとよい。また、システムの新たな使い方に伴う潜在的なバイアスを検査することもでき、その準備としてアバターのテストが役に立つ。
機械の振る舞いが倫理的であるよう万全を期す
対話型AIは、人々の信頼とエンゲージメントを高め、孤独感を緩和することができる。さらには自閉症の子どもや、トラウマからの回復途中にある人への支援にも有望だ。
しかし、このような能力は倫理とコンプライアンスの問題も多く生む。強い説得力を発揮でき、信頼を生む能力も兼ね備えた対話型AIは、顧客が望んでおらず、必要でもない製品やサービスを売るために使われる可能性がある。
さらに、対話型AIはユーザーを大規模にプロファイリングして、その感情バイアスと認知バイアスを利用することもできる。これは欧州連合(EU)のデジタルサービス法で明確に禁じられている行為だ。
顧客サービス担当者、特に製品やサービスの販売に従事する人は、機械が最善の振る舞いをしている時と、倫理の一線を超える時の両方を把握できる独特の立場にいる。
今後進むべき道筋
顧客サービスはわかりやすい例ではあるが、これは生成AIが組織全体にまもなく及ぼすことになる影響のごく一部にすぎない。ほかの主要なイノベーションに際しては、企業が導入し始めた時点でテクノロジーは比較的安定した「製品」となっていた。生成AIと大規模言語モデルはそうではなく、導入と進化が同時に進むことになる。なぜなら、ブレークスルーの度合いが非常に大きいからだ。
企業は待っている場合ではない。仕事を再構築し、人間のタスク、自動化されるタスク、強化されるタスク、新たに生まれるタスクを、企業特有の事業の状況、文脈に照らして最も効果的に組み合わせるべきであり、この困難な仕事に、リーダーはいまから着手しなくてはならない。
生成AIのテクノロジーは導入と進化がほぼ並行して進むため、継続的に破壊的変化をもたらすことになる。だが同時に、人間の創造性を引き出し、これまで解決不可能だった問題を解決する力を人々に与える。
たとえば次のように想像してみよう。ある生成AIが、顧客とのやり取りを訓練データの一部として継続的に学び、自分の「知識」を用いて、以前には考えられなかった製品やサービスを提案する。
このようなシステムは、データマイニングやその他の製品開発ツール、マーケティングツールをはるかに超えて、デザインの詳細、市場規模、新製品の継続的な進化と強化の方向性などを含む、ニュアンスと具体性に富んだ製品アイデアを生み出すかもしれない。
事業の歴史、状況や文脈、ニュアンス、目的をすべて理解する生成AIと大規模言語モデルの能力は、一世代に一度あるかないかの好機をもたらす。言葉を通じて伝達されるあらゆるもの(文書、メール、チャット、動画や音声の記録、およびアプリケーションやシステム)を活用するAIの能力によって、人間は組織が持つすべての知識を得ることができる。それらを用いて、より高度なイノベーション、最適化、改革を促進できるのだ。
今後も驚異的な速さでの開発が続くだろう。情報へのアクセス、コンテンツの制作、顧客ニーズへの対応、事業運営などの方法が根本的に変わる、非常に刺激的な時代の入り口に私たちはいる。
迅速かつ最も積極的に動く企業は、従業員の能力を高め、顧客を満足させ、新しく強力なビジネスモデルを導入することで、行動をためらう企業よりも圧倒的な優位に立つのだ。
"Generative AI Will Enhance - Not Erase - Customer Service Jobs," HBR.org, March 30, 2023.