
全従業員が顧客と接することの重要性
オンラインフードデリバリー会社のドアダッシュは2021年の暮れ、エンジニアや経営幹部を含む全従業員に、月1回以上フードデリバリー(ダッシュ)への参加を義務づけると発表した。この取り組みの目的は、従業員が顧客との距離を縮めて「顧客重視のマインドセット」を促進し、サービスを「毎日1%向上させる」ことにあった。
顧客体験の向上を目的に、多くの企業が同様に大きな努力を重ねているが、それには正当な理由がある。顧客体験をわずかでも向上させることで、顧客離れを防ぎ、顧客の消費を増加させて、莫大な収益を生み出せるからだ。
デジタルファーストの今日では、優れた顧客体験の実現がかつてないほど困難になっている。顧客は、もはやコールセンターや配達員だけでなく、メールキャンペーン、チャットボット、レビューサイト、ソーシャルメディアなど、多種多様な場で企業と接している。
卓越した顧客体験には
新しい部門横断的な関係が必要
企業は長年にわたり、現代のデジタルファーストでオムニチャネルな環境に適応しようとしてきた。しかし、その多くは、統一された素晴らしい顧客体験を生み出せていない。米国顧客満足度指数(ACSI)によると、米国では顧客満足度の評価は過去最低を記録している。
アサナのワーク・イノベション・ラボは、変化する仕事に企業が適応できるように支援する未来の仕事に関するシンクタンクで、研究の多くは、企業がどのようにコラボレーションし、どうすればより効果的なものにできるのかを理解することに焦点を当てている。私たちはこの実用的な理解を「コラボレーティブ・インテリジェンス」と呼んでいる。
筆者らの調査では、卓越した顧客体験は、組織全体の部門横断的な新たなコラボレーションによって促進されることが明らかになった。顧客体験は、もはや最前線の営業担当者や顧客体験の専門チームによって推進されるものではない。組織内のすべての人が役割を担っているのだ。
たとえば、優れた顧客体験を提供するには、顧客体験チームとプロダクトチームの間で強力なコラボレーションが重要になる。筆者らの調査によると、その重要性は以前よりも増している。これらのチーム間の緊密なフィードバックループにより、現在および将来の顧客の声をより迅速に製品開発に反映させることができ、ひいてはよりよい顧客体験を促すことができる。
顧客体験を向上させる一般的な方法は、カスタマーフィードバックを共有し、そこから学ぶことだ。しかし、顧客からのフィードバックは、一部の従業員にしか共有されていないことが多い。それをより広く全従業員で共有することで、顧客体験を向上させることができる。その一例が住宅関連用品を販売するビルドダイレクトで、同社については筆者のレベッカ・ハインズとスタンフォード大学教授のボブ・サットンが詳細な研究をしている。
ビルドダイレクトも当初は、ネガティブなカスタマーレビューにアクセスできるのは幹部だけだった。だがその後、よりよい顧客体験のために全従業員がレビューにアクセスできるようにした。すると、社内のすべての部門の従業員が顧客体験に対する責任を感じ、部門を超えてその向上に取り組むようになった。
部門横断的なアプローチで
自社製品・サービスを評価する
ドアダッシュの従業員プログラムは、「ドッグフーディング」(自社製品を顧客と同じように使い、何が機能し、何が機能しないかを把握すること)や「自社のシャンパンを飲むこと」(自社の製品やサービスを顧客に提供する前、あるいは提供しながら社内でテストすること)の今日的な例といえる。
いまを超えるレベルの顧客体験を提供するためには、従来の意味でのドッグフーディングだけでは不十分だ。従業員は新しい部門横断的な方法で協力し、製品やその他の学びを組織全体で共有する必要がある。
筆者らが調査した企業の一つで、
同社の「ワークラボ」のディレクターであるサロニー・シャーは、人材チームと「ギルダー」と呼ばれる多くの従業員が、キャリアモビリティ・プラットフォームを利用して「自社のシャンパンを飲む」だけでなく、「ブドウ園」としての役割も果たしていると説明する。ギルダーは、みずからのキャリアモビリティの支援を目的に設計されたこのプラットフォームのエンド・トゥ・エンドのユーザーとして、よりよい顧客体験を強化できるよう、リアルタイムのフィードバックを提供している。さらに、自社のプロダクトチームや提携チームと、新しいユースケースを共有することが奨励されている。
素晴らしい顧客体験を実現するために、最も重要な部門横断的な関係は、ビジネスの内容や理想とする顧客像によって異なる。リーダーは、エンド・トゥ・エンドの顧客体験を提供するために、社内のさまざまな部門のチームがどれだけ広範囲に連携しているかを評価できるはずだ。そして、十分に強力なコラボレーションが行われているかどうかを判断し、そうでない場合は軌道修正ができる。