価値実現への道筋

 生成AIは比較的新しく、急激に進化している。その役割を規定し、モデルの訓練とファインチューニングを行い、アプリケーションの開発と導入を担う人材は不足している。企業は虚偽に伴う問題から身を守り、価値を迅速に実現し、コストを抑えながら成果を出すための道筋を見つけなくてはならない。

誤りと矛盾に対処する

 チャットGPTと競合製品は、不正確な答えを示したり、間違った断定を下したりすることが実際にある。同じ質問を2度すると、違う答えが返ってくる場合もある。

 ユーザーはこの種のテクノロジーを、いつ、どのように使うかをわきまえなくてはならない。まずは現実的な期待を持つことから始めよう。質問し、答えを改善するために連続してプロンプトを与えるにはテクニックがいる。営業組織は訓練と実習、ベストプラクティスの共有を通じてそれを学ぶ必要がある。

 会社のコンテキストに基づく知識によってモデルがファインチューニングされると、リスクは少なくなる。追加のデータと訓練とフィードバックを通じて、正確性と一貫性は向上する。人間とまったく同じだ。リスクを伴うコンテキストでAIが生成した答えは、人間による確認が必要だ。幸いにも人の手による確認は、営業担当者と営業マネジャーのワークフローにおいては当たり前の作業である。

価値を迅速に実現する

 この破壊的技術の能力は指数関数的に高まっているため、数カ月どころか数週間で価値を実現し始めることができる。迅速に成果を出すための戦略の一つは、既存の営業システムに能力を組み込むことだ。

 たとえば、営業担当者がメールの作成や、プレゼンや企画書の考案に使うツールを、生成AIで強化できる。また、顧客のセンチメントに関するインサイトを取り入れることで、AIによる提案の質を高めることができる。このような強化はバックグラウンドで実行可能なため、ユーザーはアプリケーションの機能を学び直さなくても恩恵を受ける。

 導入のスピードに関していえば、開発するよりも買うほうが早い。カスタム仕様のAI駆動型システムを開発すれば、より高度の柔軟性が得られるが、それには多くの時間とリソースが必要だ。既存のアプリケーションを購入すれば、社内に専門人材を擁する必要性が減り、変化の速いテクノロジーに対応しやすくなる。

コストを抑えながら成果を出す

 AIの能力を外注しつつ、社内で中核となる少数のAI専門家を育成し、営業とほかの職能を支援させることが有効な場合が多い。

 AIを営業に導入する取り組みは、「バウンダリースパナー」(境界連結者、橋渡し役)が主導すると成功の確率が高まる。つまり、技術専門家たちと営業部隊の両者に対する理解があり、かつ両者から尊敬されている人物だ。バウンダリースパナーは双方の言葉を話すことで、ソリューションが営業にとって有効で便利なだけでなく、長期的な技術の実装と持続が可能なものになるよう、慎重に最適化するための後押しができる。

 また、導入に際してアジャイルで反復的な手法を用いることで、価値実現への道筋を維持したまま、改善を促進できる。主な手法として、ラピッド・プロトタイピング、テスト、およびアーリーエクスペリエンスチーム(システムの使い勝手、有用性、導入計画に関する洞察を提供する先行ユーザーのグループ)からのフィードバックに基づくイテレーションなどがある。

AIは生産性支援ツールか、それとも営業担当者の代替なのか

 AI駆動型のテクノロジーは早急に、すべての営業担当者と営業マネジャーのデジタルアシスタントになるものと筆者らは見込んでいる。生成AIはすでに、コピーライターによるコンテンツ案の作成や、コンピュータプログラマーによるコードの作成を支援し、生産性を50%以上押し上げている。営業担当者に対しても同じことが可能だ。

 AIはすでに、顧客のセルフサービスをより効果的にし、インサイドセールスをより強力なものにしている。消費者は製品、サービスを自分で調べるためにデジタル技術を使うことが増えている。eコマースはB2Bの世界でも定着した。複雑な営業においてもデジタルが果たす役割は増え、見込み客の創出と優先順位づけ、製品情報の共有と構成、発注といった業務を担っている。

 デジタルとインサイドセールスは今後も、外回りの営業担当者が担ってきた業務の多くを容赦なく引き継いでいく。定期的な購入については特にである。

 とはいえ、新しく複雑な製品、サービスに関しては、認識されているニーズと潜在的なニーズの見極め、ソリューションのカスタマイズ、複雑な購買組織への対応などを行うことができる営業担当者が依然として必要だ。

 AIはたしかに、営業担当者から業務を奪い、複雑な状況における彼らの役割をますます減らすだろう。だが同時に、AI技術を売る企業によって、今後の膨大で複雑な商機を捉えるための大きな営業力がもたらされるはずである。


"How Generative AI Will Change Sales," HBR.org, March 31, 2023.