
営業組織が生成AIを活用する方法
マイクロソフトは2023年2月、Vivaセールス(Viva Sales)のリリースという強力な一撃を放った。生成AI技術が組み込まれたこのアプリケーションは、営業担当者と営業マネジャー向けに設計され、個々の顧客に合わせたメールの草案作成、顧客と見込み客に関するインサイトの獲得、推奨事項やリマインダーの作成などを支援する。
その数週間後にセールスフォース・ドットコムも、アインシュタインGPT(Einstein GPT)をリリースしてこれに続いた。
構造化されておらず、ばらつきが大きく、人間が主導する営業という職能は、財務や物流管理、マーケティングなどに比べると、デジタル技術の活用が遅れている。
だが、営業はいまや急速に、生成AI(チャットGPTを開発したオープンAI(OpenAI)と、その競合他社が扱う人工知能の一種)の導入で先頭に立とうとしている。AI駆動型のシステムは、
営業は生成AIモデルの能力を活かすのに適した職能である。販売は多くのコミュニケーションと取引処理を伴い、メールスレッドに含まれるテキスト、電話での会話の音声、個人とのやり取りの動画などを含む大量のデータを生み出す。まさにこのような非構造化データを扱うために、モデルは設計されている。販売に伴う創造的で有機的な特徴は、生成AIによる解釈、学習、関連付け、カスタマイズの機会を無限に生む。
しかし、その真の潜在能力を引き出すためには、克服すべきハードルと課題がある。じゃまにならない形で生成AIを営業のプロセスとオペレーションに組み込まなくてはならない。そうすることで営業チームは、生成AIの能力をワークフローに自然に組み入れることができる。
生成AIが出す結論は、時に間違っていたり、バイアスがかかっていたり、矛盾していたりする。一般に公開されているモデルは有益だが(すでに何億人ものユーザーが実質的にあらゆるトピックに関して知識を尋ねるためにチャットGPTを使っている)、営業チームにとって真に有効となるのは、モデルが自社固有のデータとコンテキストに沿ってカスタマイズされ、ファインチューニングされている場合である。
これには多くの費用がかかる可能性があり、AIと営業の両方に関する知識が豊富な人材なども含め、稀少な専門知識が必要となる。
では、営業組織が非生産的な道を進んでエネルギーを浪費することを避け、価値を獲得するにはどうすればよいのだろうか。
生成AIには何が可能なのか
その方法を検討する前に、生成AIは営業組織に対して何ができるのかを考えてみよう。
事務作業の増加を解消する
筆者らが関わるほぼすべての営業組織は、事務作業が時とともに徐々に増える現象に苦しんでいる。販売の複雑性が増すにつれて、文書化、承認、コンプライアンス報告の必要性も高まる。
営業テクノロジーの使用の増加も、気づかぬうちに大きな要因となっている。新規テクノロジーは往々にして、訓練、データ入力、閲覧する報告書の量の増加を引き起こす。
営業担当者によるメールの作成、提案依頼書への対応、メモの整理、CRM(顧客関係管理)データの自動アップデートなどを生成AIが支援することで、事務作業の増加を解消できる。
顧客とのコミュニケーションを強化する
営業におけるAIの活用は、最近進歩している。筆者らが多くの企業での導入を支援してきたAI駆動型のシステムは、パーソナライズされたコンテンツや製品を推奨し、顧客とつながるための最適なチャネルも合わせて営業担当者に提案する。
推奨の根拠となるのは、顧客および類似顧客の志向、行動と、顧客との過去のコミュニケーションだ。担当者は推奨を採用することも却下することもある。アルゴリズムを向上させるために推奨の質を評価することも可能だ。
生成AIを追加して用いることで、モデルはより優れた推奨を生み出すことができる。一例として、メール、営業担当者との会話、SNSへの投稿などに含まれる、言葉のニュアンスと興味や不信感を示す微妙なシグナルから、顧客のセンチメントを探り出して考慮に入れてもよい。
加えて、営業担当者はリアルタイムで行われる推奨データの質を向上させるために、システムと協働できる。たとえば、顧客に新しい製品やサービスを提案するようAIから推奨された後、その顧客自身のニーズを掘り下げつつ、同じ提案で恩恵を受けるほかの顧客を探すという、縦と横の探索が可能になる。
双方向対話型のユーザーインターフェースによって、アプリケーションは使いやすくなる。売り手と買い手間の環境が真に協力的ならば、買い手も対話に参加できる。
営業マネジャーを支援する
営業マネジャーは、営業実績の報告書と分析結果を精査することに多くの時間を費やす。最近ではほとんどの営業報告は、受動的で過去志向の文書から進歩を遂げ、データを詳細なレベルに掘り下げて表示できる、より双方向的な診断ツールとなっている。
生成AIによって、報告システムはさらに強力かつ未来志向になる。マネジャーは営業担当者の成果向上を後押しするためのヒントや、より的確で意欲を高めるコーチングにつながるフィードバックを提供するためのヒントを求めて、システムに質問を投げかけることができる。
マネジャーはシステムとの対話を通じて、営業機会を発見し、重要顧客戦略を策定し、もろもろの地域、顧客、製品、活動に労力をどう割り振るかを判断することで、何週間もかかっていた営業計画の策定を1時間で実行できるのだ。