メタバースを活用する企業は何を得ているのか
Daniel Megias/Getty Images
サマリー:メタバースに取り組む企業は、引き続き、顧客への理解をいっそう深める機会を得ることになる。マーケターやビジネスプランナー、商品開発者は、本稿にまとめられた先進的な企業の取り組みを参考に、メタバースの活用... もっと見るを検討すべきだろう。 閉じる

メタバースにより消費者が主導権を得る

 ますます多くの企業が、顧客との関係をあらためて構築していく手段としてメタバースに注目し、双方向性やパーソナライゼーション、冒険といった要素を顧客とのコミュニケーションの中に組み込んでいる。端的にいうとメタバースの本質とは、ユーザーがさまざまな設定の中でやり取りをし、人と交流し、デジタルの商品やサービスを取引する3Dバーチャル世界の集合体である。

 メタバースは少なくとも主に3つの面で、消費者に主導権を与える。

(1)商品の発見と探索に関する、新しい方法の創出。

(2)フィジカル商品とバーチャル商品に関する、体験の有意義な融合。

(3)バーチャル環境でユーザーとやり取りできるAI(人工知能)駆動のボット「デジタルヒューマン」による、人とブランドのつながりの再確立。

商品の発見と探索に関する、新しい方法の創出

 新しい車や新しい家、エキゾチックな場所への旅などの高額な買い物は、静止画面のオンライン環境では決断しにくい。商品をよく調べたり、試したり、アドバイスを求めたりする機会が限られているからだ。多くの企業はすでにメタバースを活用して、その環境を変えようとしている。

 たとえば、ロイヤル・カリビアン・グループの子会社でフロリダ州マイアミに拠点を置くクルーズ客船運航会社、セレブリティ・クルーズの例を見てみよう。

 パンデミックによって旅行業界が壊滅的な打撃を受けた時、メタバースは見込み乗船客と再び関わる方法を提供した。セレブリティ・クルーズはメタバース上で、初のバーチャルクルーズ船「セレブリティ・ビヨンド」を就航させた。潜在的な乗客は出航前に、この旅客船の360度パノラマツアーに参加したり、華やかな中心部のグランドプラザを歩き回ったり、ルーフトップガーデンやサンセットバーでくつろいだりすることができる。また、乗客は船長や船の設計者のAI駆動アバターと会話し、この船の設計や種々のサービスについて詳しく知ることができる。船旅に不慣れな人に向けては、日本やカリブ諸島、アラスカ、欧州をはじめ、多くの目的地へのバーチャルツアーを提供している。

 新車の購入も、時間をかけて商品をよく調べ、試す必要がある高額な買い物だ。イタリアの自動車メーカー、フィアットによる「フィアット・メタバース・ストア」では、顧客はバーチャル版の新型500ラ・プリマ・バイ・ボチェッリの運転席に座り、運転とインフォテインメント(情報と娯楽を提供する)システムの特徴を調べ、車の設定をパーソナライズし、由緒あるトリノのリンゴットビルの屋上庭園をめぐる試乗コース、ラ・ピスタ500でバーチャル試乗を楽しむことができる。

 ほかにも、顧客が商品の生い立ちや背後にあるプロセスとテクノロジーについて理解を深められるよう、ブランドがメタバースを活用する例もある。世界的自動車メーカーである韓国の現代(ヒョンデ)自動車がゲーミングプラットフォームのロブロックスで公開した「ヒュンダイ(ヒョンデ)・モビリティ・アドベンチャー」では、特に若年層の消費者が先進的なモビリティソリューションについて詳しく学ぶことができる。

 カリフォルニアを拠点に世界展開するレストラン・チェーン、チポトレ・メキシカン・グリルは、ロブロックス上の「チポトレ・ブリトー・ビルダー」で、顧客に双方向的なブリトー(トルティーヤに具材を包むメキシコ料理)づくりの体験を提供している。顧客はグリルのシミュレーターを使って、バーチャルなワヒーヨステーキを焼き、味付けし、ほかの食材と混ぜて、本物の食べ物と交換できるポイントを獲得する。また、最初のレストランがオープンした1993年に瞬間移動して、バーチャルなキッチンで料理長と話したり、自分でバーチャルなブリトーを巻いたりすることもできる。

フィジカル商品とバーチャル商品に関する、体験の有意義な融合

 従来のeコマースでは、消費者は主にフィジカル商品をオンラインで注文し、オフラインで消費していたが、メタバースはバーチャル商品とフィジカル商品の融合において、はるかに大きな可能性をもたらす。

 たとえば、ロンドンを拠点とする急成長中のファッション・インフルエンサーでありファッションブランドであるチャーリー・コーエンのビジネスモデルを見てみよう。同社はミラノ産の環境に配慮した生地を使った限定版の衣類生産を手掛ける。一方で、ゲームやバーチャルリアリティ、およびメタバース環境で使えるバーチャルの衣類も生産している。

 さらに、ゲーム会社の象徴的存在であるポケモンや百貨店チェーンのセルフリッジズと提携して、「エレクトリックシティ」を始動した。エレクトリックシティで顧客は、チャーリー・コーエンとポケモンの連携による実際のファッションアイテムを見て回って購入したり、限定版のデジタル衣類を買い求めたりすることができる。