CXに関する課題に対処する

 以上に挙げた今日のCXに関する課題に対処するために、以下の取り組みを勧めたい。

1. CFOがコストの削減だけでなく、価値創造も重んじるようにする

 CX部門のリーダーは、自分たちの活動の価値を過小評価し、実現した成果よりも活動そのものを強調する傾向がある。実際、ある企業幹部は最近、10種類の異なる顧客の類型に対応していると誇らしげに語っていた。その会社のCXチームの規模が極めて小さいことを考えれば、それが不可能に等しい離れ業であることは確かだが。

 コスト削減がテーマになった時は、以下のように視点を変える戦略を検討しよう。

・CXに投資することにより、売上げの漸増を後押ししたり、自社のブランドが人々の話題に上る機会を増やしたり、経常収益を拡大したり、顧客生涯価値を向上させたりする効果が期待できることを示そう。その際、「プログラムデリバリー」「サポート」といった言葉を使うことは避けたほうがよい。このような言葉を用いると、CX関連の取り組みが本質に関わるものではなく、取りやめても差し支えないものだという印象を生み出してしまう。

・CX関連の指標が自社の戦略上の目標に沿ったものになるようにしよう。特に、CFOが金融マーケットに対して報告しなくてはならない指標(売上高の伸び率や営業利益率など)と関連づけることが重要だ。CFOは、ソーシャルメディアのフォロワー数など、本質との関わりが薄く、虚栄心を満たすだけの指標にはほとんど関心を示さない。あなたも、そうした要素に関心を払うべきではない。

・プロジェクトの計画と進捗確認の会議に、財務計画および財務分析を担当している人たちも招こう。そうすると、その人たちは、自分がCX部門の敵対者ではなく、協働者であるという意識を持つようになる。その結果、次の計画の際には、あなたが持つ戦略的なCX関連に対する投資が真剣に考慮される可能性が高まる。

2. 顧客セグメンテーションに関する取り組みに、顧客価値に関する調査を盛り込む

 市場調査会社バリュー・グラフィクスのCEO、デービッド・アリソンによれば、人口動態上の属性を軸にCX戦略を構築すると、しばしば目的を達成できずに終わるという。アリソンのチームでは、人々が重んじている価値、ニーズとウオンツ、期待に関する152言語、75万件の調査結果を分析した。すると、驚くべきことが明らかになった。「いかなる人口動態上の集団においても、そこに分類される人たちの類似点は、平均すると全体の10%にすぎない」というのだ(筆者がアリソンに行ったインタビューについて、詳しくはこちらを参照)。

 自社にとって理想的な顧客が何を重んじているのかを知りたい場合は、価値観に関するアンケート調査を行ってもよいし、一対一で話を聞く機会を設けてもよい。その両方を実施してもよい。しかし、時間や予算の制約がある場合は、以下の問いを出発点にするとよいだろう。

・なぜ、あなたは仕事に行くのですか、コンサートに行くのですか、新しい服を買うのですか……など。顧客があなたのブランドをどのような場で経験するかに合わせて、問いを考えよう。

・あなたがいま宝くじに当たり、賞金の半分を他人にあげようとしているとしましょう。なぜあなたはそのように考えるのでしょうか。

・あなたは、いま10年前の自分に手紙を書いています。その手紙にどのようなことを書きますか。なぜ、そのように書くのですか。

3. EXとCXの目標およびインセンティブをすり合わせる

 2019年にアンドルー・チャンバーブレインとダニエル・チャオが寄稿した記事は、従業員エンゲージメントが高いことと、米国顧客満足度指数(ACSI)のスコアが高いことの間に相関関係が存在する例をふんだんに紹介している。アップル、トレーダー・ジョーズ、コストコ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)といった会社は、理想の職場ランキングの類いで常に上位に名を連ねている。これらの会社の共通点は、ACSIでも目覚ましいスコアを記録していることだ。

 このような有名ブランドをお手本にしようとする場合、EXチームとCXチームの協働に関してどのような点を改善すべきなのか。どのように、2つのチームのインセンティブをすり合わせればよいのか。どの点で、両者のテクノロジープラットフォームを統合できるか。取締役会への業務、財務報告を求めるに当たり、EXとCXに関連する指標をどのように位置づければよいのか。こうしたことを検討しよう。

 加えて、従業員が顧客向けのプログラムについて発言権を持てるようにすることも重要だ。セールスフォースの調査報告書「The Experience Advantage」では、以下のように指摘している。「自分が信頼されていて、いまの役職でリスクを伴う行動を取っても危険がないと感じている従業員は、みずからをCX向上の最大のサポーターと考える確率がそれ以外の従業員に比べて1.5倍高い」

 筆者のクライアントのうちの1社は、自社の価値観を体現する行動を実践した従業員を称えるためのプログラムを毎月実施している。この会社は2022年に、売上高を32%伸ばし、従業員エンゲージメントのスコアも20ポイント上昇した。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界のあり方を変え、顧客が企業に対して抱く期待を変えた。今日、とりわけ大きな成功を収めている企業は、こうした変化に合わせてCXも変える必要があることを認識している。CXに関する話し合いに部署横断型のメンバーを参加させ、顧客価値についての理解を深めることにより、リーダーは将来にわたり、自社のブランドが時代遅れの存在になることを避けられるのだ。


"3 Ways Companies Get Customer Experience Wrong," HBR.org, April 07, 2023.