女性フリーランサーの成功を妨げる「ガラスの壁」をいかに乗り越えるか
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サマリー:組織に属する女性が、その組織のトップに昇進しにくい傾向は「ガラスの天井」と表現される。組織において、男性に比べ女性の昇進が難しいことは認識されているが、女性が組織から離れ、フリーランスとして活動する場... もっと見る合にも、女性特有の困難が待ち受けている。「ガラスの壁」すなわち関連領域への活動の拡大を、前向きに受け止めてもらえないという問題だ。本稿ではなぜこのようなバイアスが生まれるのか、そして企業がこのバイアスにいかに対処すべきかを論じる。 閉じる

女性フリーランサーが直面するガラスの壁

 企業で女性のトップ昇進を阻む目に見えない制約、いわゆる「ガラスの天井」を避けるために、フリーランスという働き方を選ぶ女性が増えてきた。このアプローチは歴史的に、女性が自分でキャリアパスを形成し、みずからにとって最適な方向性と柔軟性を確保することを可能にするものとして称えられてきた。しかし、フリーランスは、常に女性のキャリアアップにつながる働き方なのだろうか。

 一見したところ、自分が自分のボスになれば、バイアスがかかった上司や昇進制度にじゃまされることなく、自分の条件でキャリアアップを図れる最高の方法だと思えるかもしれない。だが、筆者らの最近の研究では、フリーランスの仕事にもジェンダー不平等を伴うことが少なくないと判明した。

 一般に、企業では専門性を磨いて昇進を目指すことが奨励されるが、フリーランサーはまず、さらに狭い専門領域で活動を開始して、スペシャリストとして顧客基盤を構築してから、活動範囲を関連領域に広げていくと成功しやすい傾向がある。会社勤めをしなければ、女性が「ガラスの天井」にぶつかることはないが、女性フリーランサーは代わりに「ガラスの壁」にぶつかることが多い。女性フリーランサーが活動範囲を広げようとすると、男性フリーランサーよりも能力が低く、熱意が乏しいと評価されるためだ。

 筆者らは、クリエイティブ分野のフリーランサーを対象に一連の研究を行い、この「ガラスの壁」の存在についての証拠を得た。クリエイティブ分野のフリーランサーに対象を絞ったのは、この業界ではフリーランサーを使うことが最も一般的であるためだ。そして、フリーランサーの顧客である企業の担当者は、極めて限られた情報に基づきフリーランサーの実力や熱意を評価して、起用するか否かの決定をしなければならないことが多く、その決定にはバイアスが入り込む余地が大きい。

 第1の研究では、韓国のポピュラー音楽(K-POP)業界で、2003~2012年にデビューしたフリーランスのソングライター8000人以上のキャリアを分析した。すると、先行研究の結果同様に、関連領域(作詞、作曲、編曲など)に活動範囲を広げる時、男性ソングライターのほうが長期的な成功を収める可能性が高いことがわかった。たとえば、作詞家としてデビューした男性ソングライターは、作詞に専念するよりも編曲も手掛けたほうが、2曲目を発表できる可能性が高かった。これは重大なことだ。2曲目をリリースできるのは、デビューしたソングライターの半分以下だからだ。

 これに対して、デビュー後に新しい領域に進出した女性ソングライターは、当初の領域に留まった人よりも2曲目をリリースする可能性が低かった。音楽のジャンル、ソングライターとしての契約種別、パフォーマンス兼任の有無、大手レーベルかインディ系レーベルかなどの違いを調整しても、女性は男性とは異なり、新しい領域に活動を広げるとペナルティを受けることが一貫して示された。

 なぜなのか。「ガラスの壁」の根底にあるメカニズムを探るため、K-POPソングライター78人に、複数の男女ソングライター(架空の人物)のプロフィールを示し、コラボレーション相手にしたいのは誰か評価してもらった。

 架空のソングライターの出身や経験はほぼ同等で、活動範囲だけが異なるようになっていた。その結果、活動範囲を拡大した女性ソングライターは、同等の男性ソングライターよりもみずから何かを実行する行為主体性が乏しいとみなされ、男性よりも能力が低く、自分のキャリアに対する熱意が低いと認識されることがわかった。評価者の性別は結果に影響を与えなかった。音楽レーベルの幹部にも同様のバイアスがあり、それがソングライターたちのキャリアに差異を生じさせる可能性がある。

 さらに、これらの研究結果を検証するため、筆者らは国と業界を変えて同様の調査を行ってみた。具体的には、米国在住の成人300人以上に、映画業界で働くフリーランサー(架空の人物)の評価してもらった。この架空のフリーランサーには、一つの領域、つまり映画撮影だけの経験がある者と、映画撮影と美術セットなど複数の領域で経験がある者が混ざっていた。すると、ここでも複数の領域で経験がある女性フリーランサーは、同等の経験を持つ男性フリーランサーよりも行為主体性が乏しいとみなされ、能力もキャリアへの熱意も乏しいという認識につながっていた。

 もちろん、この「ガラスの壁」効果は、フリーランサー特有の現象ではない可能性が高い。企業は従業員がキャリアパスを形成したり、新しいポジションについてキャリアを上にも横にも拡張したりするに当たり、本人の自主性を認める余地を拡大してきた。しかし、女性従業員は、よく知られる「ガラスの天井」だけでなく、横にポジションを広げる際にも障壁に直面することが増えるかもしれない。

 女性フリーランサーにとって「ガラスの壁」を乗り越えることは、とりわけ大きなチャレンジとなる。彼女たちには横向きのキャリア拡張を支えるリソースや仕組みが乏しいからだ。

ガラスの壁を打ち破る方法

 では、女性フリーランサーが「ガラスの壁」を突破するためはどうしたらよいのか。起用時のバイアスに対処する責任は、起用した担当者にある。しかし筆者らの研究では、フリーランサーにも、成功の可能性を最大限にするためにみずからできる実践的な措置があることがわかった。