ジェンダーを曖昧にするビジネスネームを使う

 理想の世界では、誰もが偏見を恐れずに、自分のアイデンティティを全面的にさらけ出せる。しかし、筆者らがフォローアップ研究で女性フリーランサーらの話を聞いたところ、現実には、ジェンダーを曖昧にするとバイアスのかかった一次評価を避けて、起用の足掛かりをつかめる可能性があるという。多くのフリーランサーが使っている方法の一つは、フリーランスとしての活動を法人化して、潜在的なクライアントとやりとりをする時は自分の名前ではなく、会社名を使うことだ。

活動領域を広げた理由を伝える

 キャリアパス的に同じ決断を下したのに、女性が男性とは異なる評価をされるのはフェアではない。だが、自分が活動領域を広げることにした理由を明示的に伝えると、仕事への熱意に対する顧客の不安を抑えることが調査から明らかになっている。したがって、女性フリーランサーの場合、プロとしての活動範囲を広げることにした理由を積極的かつオープンに説明することがプラスになるだろう。

プロフェッショナルな資格を通じて能力を示す

 多くの職能団体が提供している、さまざまなスキルの認証や資格を取得すれば、まだ実務経験がないから証明できないけれど、そのスキルを持っていることを証明することができる。こうした認証や資格の取得課程を修了すれば、特定の仕事ができるという客観的な証拠になると同時に、そのスキルを身につけるために時間と労力をそそぐ熱意があることも、暗に伝えることができる。

 顧客を獲得するには仕事の経験が必要だが、顧客がいないから経験を積めないという「タマゴが先かニワトリが先か」的な問題を抱えがちなフリーランサーにとって、認証取得課程を修了することは価値がある可能性がある。

組織がガラスの壁を打ち破る方法

 これまで述べてきた個人レベルの戦略だけでなく、この種のバイアスに取り組み、フリーランサーのジェンダー平等を推進するために、組織が取れる措置もいくつかある。

「ガラスの壁」のバイアスに正面から取り組む

 組織にはびこるバイアスを取り除く時はいつもそうだが、「ガラスの壁」を破壊することは、その存在を認めることから始まる。フリーランサーを評価するリーダーやマネジャーは、その評価がバイアスやステレオタイプに影響されている可能性があることを認識すべきだ。バイアスのかかった評価は、対象者にとって不公平だし、組織にとっても優秀な人材を見落とすことにつながるおそれがある。

 起用決定者は、ジェンダーバイアスについて一般的な知識があるかもしれないが、複数の領域で働く女性フリーランサーに対するバイアスは、あまり知らない可能性が高い。したがって、その影響について意思決定者を教育することが極めて重要だ。ひとたび「ガラスの壁」が認識されて、話題になれば、組織は人材活用に関する他のバイアスと同じように、積極的な対策を講じることができる。

非公式の認証を与えるなどの支援制度を利用しやすくする

 不動産や化粧品、ITなど一部の業界では、すでに専門職の資格認定制度を利用することが一般的になっている。他の多くの業界でも、独自の資格取得課程を提供することで、女性フリーランサーの活動範囲の拡大努力をサポートできる。決定的に重要なことは、こうしたイニシアティブが実際に公平性を高めるように、誰でも受講しやすくする措置(奨学金や柔軟な時間割を提供したり、マーケティング資料や教材から小さなジェンダー差別的現を取り除いたりするなど)を組織がとる必要がある。

 企業は、すでに一緒に仕事をしたことがあるフリーランサーをサポートするために、そこまで正式ではない認証(オンラインでポジティブなレビューを書き残したり、将来のクライアントの紹介者となることを申し出たりするなど)を与えることもできる。

上と横へのキャリア拡大に公平性が保たれているか測定する

 組織の正社員の公平性の問題ならば、「ガラスの天井」が女性のトップ就任を妨げていることを、ほとんどのリーダーがすでに知っている。そして、多くの企業はすでに、昇進や上級管理職における人種やジェンダーなどの内訳を把握している。

 しかし「ガラスの壁」はあまり知られていないため、組織はまだ、仕事の領域的な広がりについては、同様の分析をしていない。そのため、異動における公平性を測定すれば、「ガラスの壁」が自社にどのくらい悪影響を与えているおそれがあるか理解し、すべての従業員のキャリア拡大をさらにうまくサポートする方法についてインサイトを得られるだろう。

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 フリーランスの仕事が一般的になるにつれ、「ガラスの天井」に関連するジェンダー不平等は、もはや現代の職場環境には当てはまらなくなったと思うかもしれない。だが、筆者らの研究は、女性の足かせとなっているのは、上昇を妨げる障壁だけではないことを物語っている。

 フリーランスの世界では対等な競争の場が確保されなければならないが、「ガラスの壁」は依然としてジェンダー不平等を引き起こす大きな原因となっている。この影響を引き続き探り、記録するのが研究者たちの仕事であり、この壁がみずからの意思決定にも存在することを認め、積極的に排除するのが企業の仕事だ。


"How the 'Glass Wall' Can Hold Female Freelancers Back," HBR.org, April 11, 2023.