もちろん、TEDトークは非常に特殊な舞台だ。そこでTEDトーク以外の場所でも、ユーモアが同様の効果を持つのかを探るため、残りの筆者3人(ファン、ミロバック、ルー)は、起業家の文脈で同様の研究を行った。
具体的には、5つのピッチ(資金調達のためのプレゼテーション)コンテストで、200以上のスタートアップのピッチに対する投資家の関心、審査員の反応、単独の評価を測定した。その結果、単独の評価者が「ユーモアが乏しい」と評価した女性創業者のピッチは、同じように面白みのない男性創業者のピッチよりも、コンテストを勝ち抜いたり、投資家や審査員に肯定的に評価されたりする確率が低かった。これは一般的なジェンダー・バイアスが原因と考えられる。だが、ユーモアはこのジェンダーギャップを埋めたようだ。ユーモラスなピッチは、ジェンダーに関係なく、コンテストに勝利する可能性が高かったのだ。
たとえば、輸送コンテナ自動検査システムを提供するスタートアップ「カンスキャン」(Canscan)の創業者ジェニファー・アイベンスは、「私たちのプレーは、素晴らしい専門家チームに支えられています。なお私もその一人です」と、軽いジョークを飛ばした。「私もコンテナ輸送の専門家なのです。だから『カンスキャンでは、すべての箱をチェックする』と言ったら、本当に全部調べます」
女性は男性よりも支配的ではない、あるいは支配的であってはならない、という考え方に関連するジェンダーステレオタイプに反する行動を取ると、女性は逆風を受けるという一連の研究結果がある。こうした背景を考慮すると、この結果はとりわけ驚くべきことに見えるかもしれない。
しかし新たな研究では、このような支配的なステレオタイプとは異なり、女性が主体性に関連するジェンダーステレオタイプ(女性は知性や能力で劣るという思い込みなど)を覆す行動を取ると、好ましく受け止められる場合があることが示された。ユーモアは知性や能力と関連しているため、女性の話者がユーモアを効果的に使って「女性には面白みがない」というステレオタイプを覆すと、支配的だとか無愛想だと思われるのではなく、有能で勤勉で、自立しているとポジティブに受け止められるのだ。
もちろん、ユーモラスになることが常によいとは限らない。ユーモアは、リーダーのコミュニケーションツールの一つにすぎず、それを効果的な使うためには、文脈を把握する必要がある。
TEDトークやスタートアップのピッチではうまくいくことが、取締役会や記者会見では効果を発揮しないかもしれない。ただ、ピッチや基調講演のパネリスト、ウェビナーなど、人前でプレゼンをする時は、女性の話者がちょっとしたユーモアを交えると、温かみと有能さの両方をアピールし、最終的に影響力と成功の可能性を高められることを、筆者らの研究は示している。
さらに、すべてのジョークが、すべての講演者に同じように効果的であるわけではないと認識することも重要だ。筆者らの研究で扱ったユーモラスな女性たちは、男性たちと同じジョークを言ったわけではない。彼女たちのユーモアはユニークで、個人的で、状況に応じていて、自分の経験に基づいている傾向があった。ジェンダーを問わず、有効なプレゼンターは、ユーモアをもっともらしく盛り込む。つまりコミュニティの構成、自分のスタイルやアイデンティティに合わせて調整する。
正しく使えば、ユーモアには女性がバイアスを克服して成功するのを助ける力がある。「女性は面白みがない」というステレオタイプは、あまりにも蔓延して、自己成就的になっていることが多い。女性は面白みがないと言われ続けた結果、公の場でユーモアを示すことを抑制されてしまうのだ。
このため、私たちが目にする、面白いことを言う人のほとんどが男性となり、「女性は面白みがない」というステレオタイプがますます強化されてきた。だが、この有害なナラティブは、女性にとって大きなチャンスでもある。こうしたジェンダーに基づく期待に反する行動を取れば、驚きが生まれ、その結果、大きな恩恵を得ることができる。
女性はユーモアを示すことが期待されていないからこそ、ユーモアをうまく使えば、聴衆によりポジティブに受け止めてもらえる。そしてその話者は、真にユーモラスな人間であることを示せた時に可能になる、温かみと、能力と、影響力を示すことができるのだ。
"Research: Being Funny Can Pay Off More for Women Than Men," HBR.org, April 14, 2023.