こうした結果から、消費者と職場の両方のコンテクストにおいて、代理寄付の取り組みがその後の慈善寄付を後押しする潜在的な力を持ち、その社会的価値を高める「間接的な影響力」も併せて有していることがわかる。

 また、代理寄付の体験がその後の慈善行動の動機付けとなる心理的プロセスについても立証されている。特に、実験参加者は代理寄付に参加した後、自分をより慈善的な人間であると感じ、他者からもそのように見られることを期待すると回答した。そして、このような感情は、実験終了時に慈善団体に寄付することと正の相関があった。

 この研究は、アマゾンスマイルが直接的な影響力を持っていただけでなく、消費者に対して他の方法での慈善行動を間接的に促した可能性を示唆している。倫理学の研究者らは最近、道徳的な意思決定をデザインの問題として捉え、政策立案者や組織のリーダーは、倫理的な行動を促す状況をつくり出すよう努めるべきであると提唱している。

 代理寄付プログラムは組織にとって、一つの重要な戦略となりうると筆者らは考えている。プロソーシャルなボーナスや代理寄付のマーケティングプログラムを設けることで、従業員や消費者に社会貢献を促す状況をつくり出せるからだ。

少ないほうが成果は大きい

 筆者らの研究では、代理寄付プログラムを実施する最適な「方法」についても調査した。特に注目したのは、そうしたプログラムに「自主性」を取り入れることが重要なのかという点だ。消費者や従業員に代わって寄付を行う場合、寄付先の慈善団体を個人に選択させることは重要なのだろうか。

 これを解明するために、2つの異なる種類の代理寄付体験のその後の効果を比較する実験を行った。一部の参加者は、代理で寄付が行われる慈善団体を選ぶことができ(自主性を伴う代理寄付)、他の参加者のためには慈善団体がすでに選ばれていた(自主性を伴わない代理寄付)。

 興味深いことに、参加者がみずから寄付先を選択できない場合でも、代理寄付プログラムはその後の寄付行動を動機づけることが一貫して示された。さらに、参加者は代理寄付の体験が自主性を伴うかどうかにかかわらず、同じように自分が慈善的であるように感じたと答えた。そして、他者からも慈善的であると見られることを期待した。

 つまりアマゾンは、アマゾンスマイルのプログラムに簡単な修正を加えることで、影響が分散する懸念に対処できたということを筆者らの研究は示唆している。具体的には、消費者が購買を通して寄付できる慈善団体の選択肢を少なくする形でプログラムを修正できたはずだ。

 前述したように、アマゾンは慈善寄付が広範に分散しすぎていることを理由にプログラムの終了を決定した。だが、アマゾンスマイルの利用者による寄付先として影響力の高い慈善団体を毎年一つだけ、アマゾンが選ぶことで、このような事態は避けられたかもしれない。

 最近の調査では、効果的な慈善団体(ギブウェルが推奨するような団体)に寄付した場合の影響は、平均的な慈善団体を支援した場合の約100倍であることが明らかになった。そのため、アマゾンスマイルが支援先として、効果の高い慈善団体を一つ指定することで、「広範に分散しすぎる」という問題を解決することができた。また、筆者らの調査によって明らかになったように、消費者にその後も慈善寄付を促し続けるという、プログラムの間接的な影響も維持できただろう。

進むべき道

 筆者らの研究が示す通り、アマゾンはアマゾンスマイルの終了を決定したが、社会的影響力を向上させたいと考える企業は、代理寄付プログラムを検討すべきである。こうしたプログラムは、直接的な寄付である場合も間接的な場合も、潜在的なメリットを提供できるからだ。そのメリットは、消費者や労働者がデフォルトで参加する設定になっていて、プログラムの内容にほとんど、あるいはまったく選択肢を与えられない場合でも確認できる。

 また、筆者らの研究から、企業が代理寄付プログラムを開発する際の重要事項が2点、明らかになった。第1に、インセンティブのシステムや製品の提供、およびマーケティングプログラムに代理寄付プログラムを組み込むこと、第2にプログラムを設計する際、企業側が影響力の高い慈善団体を一つ選ぶこと、あるいはどれほど多くても選択肢は数団体に留めておくことだ。

 代理寄付プログラムは、有意義な方法で社会に貢献しようという消費者や労働者の気持ちを高める。筆者らの研究を通して、より多くの企業がこのプログラムを採用して影響力の高い価値ある活動に貢献することを期待する。同時に、こうした企業の顧客や従業員にも同じような貢献を促すようになることを願っている。


"Why Shuttering AmazonSmile Was a Mistake," HBR.org, April 19, 2023.