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アマゾンの認識は2つの点で間違っていた
アマゾン・ドットコムは2013年、顧客が簡単に社会貢献できる手段として「アマゾンスマイル」というプログラムを開始した。オンラインマーケットプレイスの「Amazon.com」ではなく、「AmazonSmile.com」を選択した顧客が、自分の好きな慈善団体を指定すると、アマゾンが顧客の購入金額の一部をその団体に寄付するというものだ。この取り組みは、筆者らが「代理寄付」と呼ぶもので、アマゾンは消費者の代理人として、消費者に代わって慈善寄付を行っていた。
アマゾンスマイルは、社会に多大な貢献をした。同社によると、このプログラムから、過去10年間で約5億ドルの直接的な慈善寄付が行われたという。社会的影響力を高めようとする組織が増える中、アマゾンスマイルの成功は、代理寄付プログラムが組織にとって社会貢献の有用な方法になりうることを示している。
しかしアマゾンは2023年1月、アマゾンスマイルを終了すると発表した。同社はプログラムの利用者に向けたメールで、「このプログラムは、当初期待していたような影響を生むほどには成長しませんでした」と説明した。「全世界で対象となりうる団体が100万超と非常に多くあり、当社のもたらすインパクトが広範に分散してしまいました」
このニュースに、多くの慈善団体関係者は落胆した。というのも、アマゾンが寄付した4億4900万ドルには大きな価値があると考えられていたからだ。だがアマゾンの広報担当者によると、アマゾンスマイルの平均年間寄付額は、一つの慈善団体当たりわずか約230ドルだったという。
筆者らの研究は、アマゾンスマイルの影響に関するアマゾンの認識が、2つの点で誤りであることを示している。第1に、このプログラムの影響は、アマゾンの認識をはるかに上回って大きいものだったこと。第2に、簡単な修正を加えて対象とする慈善団体の数を減らせば、アマゾンスマイルを維持し、そのメリットを最大限生かし続けることができたかもしれないということだ。
間接的なメリット
なぜアマゾンスマイルの影響が、アマゾンの認識以上に大きいといえるのか。理由は、アマゾンスマイルのような代理寄付プログラムには、直接的な影響に留まらないメリットがあるからだ。
代理寄付プログラムは、消費者の間だけでなく、職場においてもますます人気が高まっている。たとえば、雇用者は、従来のボーナスのシステムだけで従業員にインセンティブを与えるのではなく、「プロソーシャル(向社会的)なボーナス」、
筆者らは最近の研究で、このような代理寄付プログラムが直接的な影響を及ぼすだけでなく、消費者や従業員に対して、その後のプロソーシャルな行動を動機づける可能性があるかどうかを調査した。たとえば、代理寄付に参加した後、消費者や従業員はほかの場面でも慈善寄付をするようになるのだろうか。
それを明らかにするために、筆者らは一連の実験を行った。4回の実験で参加者合計3000人以上をオンラインで募集し、各参加者を「代理寄付」条件(代理寄付に参加する)と「対照」条件(代理寄付に参加しない)にランダムに割り当てた。それぞれの参加者に慈善的な行動と利己的な行動を取る機会を与え、代理寄付の体験が参加者に慈善的な行動を促すかどうかを評価した。
3つの実験では、職場のコンテクストを反映するようにデザインされた代理寄付体験の影響を調査し、臨時従業員としてパズルを完成させる参加者を募集した。代理寄付条件では、パズルを完成させた参加者にプロソーシャルなボーナスを与え、筆者らが参加者に代わって慈善団体に寄付をした。一方、対照条件では、作業に対するボーナスは与えなかった。
4つ目の実験では、消費者のコンテクストにおいて代理寄付プログラムを再現することを試みた。参加者には、アマゾンの商品セレクションを閲覧し、購入する商品を一つ選んでもらった。代理寄付条件では、参加者はアマゾンスマイルの商品に誘導された(参加者にはアマゾンスマイルに関する情報も読んでもらった。また、実験はプログラムの終了前に実施した)。対照条件では、参加者は同じ商品に誘導されたが、それらは標準的なアマゾンのプラットフォーム上にあるもので、アマゾンスマイルに関する情報は読まなかった。
重要なことは、4つのいずれの実験においても、代理寄付の体験がその後の慈善行動に影響を与えたことだ。たとえば、アマゾンスマイルの実験では、代理寄付条件の参加者(アマゾンスマイルに誘導された参加者)の39.5%が、実験終了後に受け取った追加のボーナスを慈善団体に寄付することを選択した。一方、対照条件の参加者(Amazon.comに誘導された参加者)のうち、寄付を選択したのはわずか29.2%だった。