1. スピルオーバーを認識して管理する

 勤務時間が終われば、仕事のストレスも「オフ」にできると考えがちだが、筆者らの調査によれば、そうではないケースが多いようだ。職場での出来事は、家庭生活に全面的に関わる能力にプラスにもマイナスにも影響を与えており、仕事と家庭をめぐる問題の研究者は、これを「スピルオーバー」と呼んでいる。

 職場で素晴らしい一日を終えた後は、親としてもパートナーとしてもエネルギッシュに振る舞える可能性が高まるだろう。一方、疲労困憊で不満の多い一日を終えた後は、ネガティブな気分がすぐに消え去るとは限らない。

 このプロセスへの意識を高めることで、ポジティブなエネルギーをうまく活用し、ネガティブな気分を家庭に持ち込むのを最小限に抑えるための手段を編み出せる。たとえば、通勤の際のルーチン(デスクからソファーへの移動だけでもよい)を決めておくことも、スピルオーバーを抑えるのに有効な手法かもしれない。

2. 役割分担に気を配る

 パートナーの上司が、もう一方のパートナーに及ぼす影響に関して研究を進めたところ、上司が協力的でないほど、子育ての負担が平等に分担されないという関連が浮かび上がった。

 職務上の負荷が大きいと、すべての家事やタスクを半々で分担することはできないかもしれないが、家庭における責任の分担方法について、意識的かつ協力的に意思決定を行う重要性は明らかだ。共働きの親の双方が職場と家庭での満足度とパフォーマンスを向上させるには、責任の分担と運営をめぐる新たな方法を試してみることが重要な戦略となる。

3. よい上司を持つことを重視する

 上司や同僚を自由に選ぶわけにはいかない場合もある一方、キャリアの転換期に、自身の将来の役割について、仕事以外の異なる側面を優先できるタイミングもある。そうした場面では、サポートを提供してくれる上司があなたの人生に与える潜在的な影響力を認識し、協力的な上司を探そう。

4. 上司と良好な関係を築く

 直属の上司を常に自分で選べるわけではない以上、重要なのは、上司になった人物との関係を積極的に構築することだ。研究によれば、直属の上司と良好な関係を築くことで、より大規模な連携やコミュニケーション、サポートを促進できるという。あなたのパートナーが身動きの取れない状況に陥っている場合、パートナーが上司との関係構築に向けた戦略を見出せるようサポートしよう。

5. サポートのコミュニティを育む

 筆者らの研究は、職場のサポート力に焦点を当てたものだったが、私たちの生活のなかで、職場のサポート力は家族に影響を与える一要素にすぎない。にもかかわらず、多くの人は、サポートを提供してくれる可能性があるのは職場と身近な家族だけだと考え、より広範なコミュニティの存在を見落としてしまう。

 親戚や隣人、友人、地域や学校のリソースなど、身の回りの幅広いサポートネットワークを構築することで、直属の上司のサポートに依存しなくても、キャリアと家庭のウェルネスを促進できるかもしれない。仕事以外の領域で創造的にサポートを構築したり活用したりすることによって、厳しい環境下でも成功する能力を鍛えられるのである。

 仕事と家庭の両面を充実させるためには、上司の協力が不可欠であることは周知の事実だ。筆者らの研究はこの知見をさらに掘り下げ、あなたの上司の対応が、あなたのパートナーの充実度にも間接的に影響することを明らかにした。

 理想的な上司を自分で選べるとは限らない。それでも、一連のプロセスを理解すれば、仕事や子育て、パートナーシップに関する複雑な決定に意識的に向き合い、あなたとパートナーの双方が人生のあらゆる局面を豊かに過ごせる可能性を高められることだろう。


"The Ripple Effect of a Bad Boss on Dual-Career Parents," HBR.org, April 14, 2023.