今後の課題

 女性社員の信頼獲得は一筋縄ではいかないが、経営者の必須課題であるはずだ。そのための有効な戦略は3つある。

1. 性別だけに囚われない

 働き方の柔軟性、育児・介護休暇、キャリア機会、公正な報酬の欠如は、すべての社員に影響を与えるが、女性に特に大きな影響がある。

 企業は、どうしたらすべての社員に公平な競争の機会を与えられるか考えなければならない。社員全員に共通の育児・介護休暇制度を提供したとしても、もし女性が男性よりも休暇を多く取得したり、一度に取得したりした場合に何らかのペナルティを受けるならば、この制度は、一見公平に見えても実際は女性の信頼を得られないだろう。

 一つの解決策としては、福利厚生を利用する社員が等しく扱われるように、業績評価プロセスを設計し直すことである。たとえば、フレックスタイム制を導入している企業で、社員によって利用の頻度や方法に個人差がある場合、社員がいつどこで働いているかではなく、個人が生み出している価値に焦点を当てて業績を評価するのである。また、成果主義賃金制度を導入している場合は、特定のグループや個人に不均等に利益をもたらしていないか注意深く観察し、不公平を是正しなければならない。

2. 一人の人間としてとらえる

 家事や育児の分担の不平等といった社会的障壁は、社員の職場体験を左右し、社員が仕事で実力を発揮する能力に影響を与える。

 解決に不可欠なのは、企業が社員を単に仕事をしにきた人ではなく、一人の人間としてとらえることである。「自社で働く従業員」だけでなく、「一人の人間」をサポートする管理職の姿勢や管理体制は、信頼の構築につながる。これには、社員を信頼し、よりよい環境づくりに寄与する力である「エージェンシー」を社員に与えることも含まれる。

「社員を信頼しない」前提でつくられた制度が及ぼす影響について考えるべきだ。たとえば、一部の小売業では、欠勤や遅刻、その他の違反行為によって、従業員に(よい意味ではなく)ポイントが加算される勤怠システムを採用している。このような制度は、脅威をちらつかせなければ、従業員は責任を持って仕事をしない、それどころか仕事に出てもこないという認識が前提にある。会社が従業員を信頼していないこと、子どもや親の面倒、自身の健康といった従業員の人としてのニーズを組織の優先事項よりも下位に置いていることが明らかである。

 社員は、企業が「仕事と個人の責任を両立させてくれている」「一人の人間としてサポートされている」と感じられなければ、会社に信頼を寄せなくなるだろう。

3. 測定し、テストし、展開する

 自分に見えていない問題や、理解できない問題を解決するのは難しい。まず、社員へのアンケート調査を実施して、基準となる社員の信頼度を測定する。社員に、以下の記述にどの程度同意するか、または同意しないかを7段階で回答してもらう。

人間性:会社は私に共感と優しさを示している。
透明性:会社は、私にとって重要な情報、目的、意思決定を、わかりやすく平易な言葉で伝えている。
ケイパビリティ(組織的な能力):会社での労働体験は良好であり、会社は私がよい仕事をするために必要なリソースを提供している。
信頼性:会社は、私に対する約束を一貫して確実に実行している。

 この評価によって、経営陣の信頼における強みと弱みがどこにあるかが大まかに明らかになり、さらに分析を進めることで、男女の信頼度の差が見えてくるだろう。

 次に、対面またはオンラインのエスノグラフィー調査手法(フォーカスグループなど)を用いて、信頼が不足している原因を調べる。エスノグラフィーは、観察を通じて暗黙のニーズを明らかにするのに有効な手法である(誰もがニーズを自覚していたり、言葉にできるとは限らない)。最大の問題は何か。透明性、人間性、ケイパビリティ、それとも信頼性が欠けていると見られていることだろうか。あるいはその組み合わせだろうか。この洞察をもとに、信頼の問題の原因に対処するためのインセンティブや制度的介入を検討し始めるとよいだろう。

 男女の信頼度の差には、特に注目すべきである。たとえば、会社の透明性に対する女性の信頼度が男性よりも低い場合、その理由は、フォーカスグループを用いれば、女性が公正な評価や報酬を得ていないと感じている点にある、といったことが明らかになるだろう。そこで、評価プロセスを透明化し、評価基準を公表し、パフォーマンスと報酬がどのように連動しているかについて積極的にデータを共有するなど、組織の制度の公平性を伝えて実証することが一つの解決策になる。

 信頼不足に対処するための介入策を展開した後、信頼度を再度測定し、最も影響のあった方法を本格導入する。そして、信頼度をモニタリングし、継続的にテストと改善を繰り返す。これには、企業としてのコミットメントと意志が必要である。これは継続的な投資と考えるべきだろう。

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 ほとんどの企業は、職場の公平性を実現しようとしており、信頼度に男女差のある制度も、おおむね善意から生まれたものである。しかし、気づかないうちに、女性よりも男性に利益をもたらすバイアスが入り込み、信頼が損なわれている。企業は、測定、実験、改良の反復的プロセスを通じて、社員間の処遇格差につながっている制度を浮き彫りにし、男女格差を縮め続けるための改革を行えるようになる。信頼を高めることで恩恵を受けるのは女性だけでなく、すべての社員とすべての組織なのである。


"Research: Why Women Trust Their Employers Less Than Men Do," HBR.org, April 20, 2023.