
変革を実現するために
目標を分解して管理する
創業95年のある製造会社は、長年5%を下回る成長を続けてきた。ところが、そこに新任のシニアリーダーがやってきて、成長の加速をチームに課した。具体的には、EBITDA(利払・税引・償却前利益)を、向こう5年間で15%から20%へ、500ベーシスポイント引き上げるよう求めたのだ。
たちまちマネジメントチームから猛反発の声が上がった。たとえ5年の猶予があっても、そんな目標は達成できるわけがない。顧客基盤や製品ライン、市場を考えれば、その会社がすでに成熟し、価値提案がピークに達したレガシー企業であることは、歴史が証明しているというのだ。
だが、そのシニアリーダーは折れなかった。損益計算書をよく分析して、望ましい改善を実現する方法を、内容をいくつかに分解してそれぞれ管理する「コンパートメント化」するよう命じた。彼は経験上、多くの企業が、変革的な戦略目標を掲げつつも、実行可能なアクションに落とし込むところでつまずくことを知っていた。そこで特に、財務諸表の主な領域(売上高、売上総利益、営業費用)について「BHAG」(Big Hairy Audacious Goals:困難かつ大胆な目標)を設定したうえで、その目標を分解して、一見不可能に見えることを達成するよう激励した。
筆者らはこのプロセスを、「野心的な損益計算書」と呼んでいる。組織の誰もが損益計算書のどこかで活動している。野心的な損益計算書は、その各領域に示された明確な指標によってプロジェクト管理を監視し、チェンジマネジメントに率先して取り組むための有用なアプローチをもたらしてくれる。
このアプローチは、インフレやサプライチェーンの混乱、労働市場の逼迫など経営環境が悪化して、企業収益を圧迫している現在は、とりわけ大きな意味を持つ。創業95年の製造会社の例は、特に全体的な目標から望ましい改善をもたらす方策の発見に重点を移すことで、どうすれば企業が利益方程式のあらゆる側面を最適化できるかについて、インサイトをもたらしてくれる。
「野心的な損益計算書」の実践
95年の歴史を持つ製造会社の経営陣が、「なるほど」と思ったのは、困難かつ大胆な目標を事業部門に振り分ければ達成可能になると気づいた時だった。具体的に言うと、その会社の野心的な損益計算書には3つのターゲット領域があった。売上高、売上総利益、諸経費(販売費と一般管理費)だ。それぞれの領域で、リーダーは以下の4つの重要な質問を投げかけ、現状維持を超えて考えることで、実行可能な措置を特定した。
・現在の思い込みから脱却し、「何が可能か」を見極めるにはどうすればいいか。
・このような野心的な改善を、実行可能な変革に結びつけるにはどうすればいいか。
・これを反復可能なプロセスと手順にできるか。
・変革を実現するためには、どのくらいの投資が必要か。
EBITDAを500ベーシスポイント引き上げるという目標が分解されて、全社的な機能を担うマネジャーを巻き込み、3つの主要領域のどこでどのように改善を生み出すかが決定された。
売上高
その会社は売上高を増やすために、近年よりも大きな成長率の実現を目標に掲げた。マネジャーらは、マーケティング、販売、流通のすべての構成要素で、収益プロセスを見直した。その会社がそれまでやってきたことにこだわるのではなく、エンドマーケット戦略、すなわち、さまざまなチャネルで特定の市場にリーチする方法を見直す権限を与えられた。
たとえば、その会社の製品は競合他社と同等かそれ以上だったにもかかわらず、油田市場での売り込みに成功したことがなかった。シニアリーダーはチームに、この分野の世界的なディストリビューター上位10社を特定するよう命じ、そのうちの6社を買収した。この買収によって製品ラインのマーケティングに加え、アフターサービスやメンテナンスを商品に加えて、顧客の共感を得ることができた。その結果、油田事業部門の利益は10倍に伸びた。