売上総利益

 その会社は粗利率を改善するために、損益計算書に入ってくるすべての項目に改善目標を設定して、粗利率をシステマティックに拡大することを目標に据えた。マネジャーらは、それを価格戦略の見直しや材料調達の効率化、固定費の削減、労働投入の最適化などを通じた売上原価の引き下げなどの具体的なアクションに分解した。

 チームは価格を一元的に検討するのではなく、SKU(最小在庫管理単位)と顧客セグメントごとに検討した。というのも、競争的要因や顧客の特徴によって、需要の弾力性は異なっていたからだ。実際、ソニーグループは最近同様のアプローチを取った。製造コストの上昇を理由に、複数の地域でプレイステーション5の価格を引き上げると同時に、システム内部の設計を見直し、コストを引き下げた。

 95年の歴史があるその会社は、商品や地域に重点を置くビジネスから、応用エンドマーケットに重点を置くビジネスへと転換して、売上総利益の改善を図った。これにより運輸、農業、建設、エネルギーなどの主要市場で2桁の成長がもたらされた。

営業費用

 今日の厳しい経営環境では、営業費用の削減は、多くの企業に共通する目標となっている。たとえばインテルは、人員削減に加え、間接費を削減し、販売費やマーケティング費用の削減、業務委託費の削減などを実施する計画を発表した。いずれも営業費用の削減につながる個々の要素だ。

 間接費の削減目標の達成を迫られた老舗企業の事業部リーダーは、現在のままのオペレーションでは達成は不可能と判断した。そこで、シニアリーダーは、過去の予算を前提とするのではなく、白紙の状態から始めることを勧めた。このように問題をとらえ直したことが、マネジャーらの創造性を解き放った。たとえば、生産拠点が多すぎると判断し、最適な製造拠点を特定し、必要に応じてシステムを合理化した。その結果、システム全体の生産能力を落とすことなく、6つの拠点が閉鎖された。

 この会社は、遅行指標(EBITDAを500ベーシスポイント引き上げるというBHAG目標)をさまざまな機能分野に分解して、アクションを取ることにより、当初の目標である5年をはるかに上回る2年で目標を達成した。その過程で、野心的な損益計算書の魅力をいちだんと高める重要な教訓をいくつか得た。

 この会社は、今後20年間の業界のマクロ的な需要ドライバーを厳しい目で検討し、それを新しい市場と成熟市場の両方に分類した。そこで重要な問いとなったのは、「こうしたエンドマーケットのトレンドを解決するためには、我々はどのような状況にあるべきか」だ。

 その結果、100年近い歴史を持つこの組織は、自社が好きな製品を売る(しかし必ずしも成長にはつながらない)会社から、20年間の堅実なマクロトレンドに基づき、重要なエンドマーケットに投資した組織へと変貌を遂げた。これが最終的なポイントだ。組織が大がかりな目標を設定した時、現場のマネジャーたちが思うのは、「誰かが引き受けてくれないかな。うちの部門では達成不可能だから」といったことかもしれない。だが、その目標を小さな戦略に分けた、野心的な損益計算書があれば、誰もが改善に参画して、その積み重ねを成功につなげることができる。


"Why Your Organization Needs an Aspirational P&L," HBR.org, April 25, 2023.