2023年3月にオープンAIよりリリースされたGPT-4においては、人間のような論理的思考や推論能力が大幅に向上し、GPT-4による司法試験の成績が上位10%に入るなど、人間と比較しても遜色ない、あるいは人間を凌駕する水準にまで達していることがわかる。

 またGPT-3.5からGPT-4のバージョンアップで、質問の意図を理解する能力は大幅に向上しており、あるテストにおいてGPT-4はGPT-3.5に比し、質問者の意図と異なる情報を提示する割合は82%減少し、曖昧な指示に対する対応力も大きく向上している。加えて、GPT-4では文字情報のみならず、画像情報も読み込み論理推論を展開する「マルチモーダル」にも対応する。

 先述したように100以上の言語に対応し、さまざまな言語で飛躍的にパフォーマンスが向上している。オープンAIの調べによると、26言語を対象としたテスト結果において、他社の最先端の大規模言語モデルの英語環境と比較しても24言語においてそれ以上の優れた性能を発揮することが示されている。

 GPT-4に代表される最先端の生成AIを用いて実現する特徴的な機能、価値を図表2「生成AIが実現する機能、価値」にまとめた。それらは主に6つ分類できる。

 第1に、人間のようなアウトプットの生成ができることである。これまで人手で実施していた作業の自動化、効率化を図ると同時に、手作業と比較してエラーを大幅に削減することが可能になる。

 第2に、従来のAIモデルと異なり「質問文」形式でさまざまなインプットが可能であることだ。これは、AI活用に専門的なプログラミングの知識や習熟を必要とせず、誰でも使用可能であることを意味する。

 第3に、自然言語のような「非構造化データ」を自動で構造化、抽出、要約できること。活用可能なデータを整備することが、従来のAI活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を阻む大きな障壁であったが、非構造化データをそのまま扱えることで導入の障壁が大きく下がったといえる。

 第4に、多言語対応である。日本語でも英語と遜色ない精度に活用できること、またグローバルに事業を展開する企業にとっては、地域横断で導入するための追い風と言える。

 第5にマルチモーダル対応だ。文字情報のみならず、顧客との対話内容の音声や画像、グラフも読み取りが可能となり、利用シーンが大きく広がることを意味する。

 最後に、アイデア創出、補完への活用だ。AIを壁打ち相手として、既成概念に囚われないさまざまなアイデア出しに活用することで、イノベーションを加速できる。これらの機能を組み合わせることで、ユースケースは無限に広がる。

図表2 生成AIが実現する機能、価値 拡大する

生成AIの普及状況と企業経営への影響

 ここまで、AIの発展の過程と、生成AIができることについておさらいした。すでに生成AIは社会や企業に大きな影響を与え始めている。

 チャットGPTは2022年11月のサービス開始以降、わずか2か月間で1億ユーザーを突破した。これはティックトック(9か月)、インスタグラム(28か月)、ユーチューブ(49か月)、フェイスブック(54か月)と比較しても圧倒的な普及スピードであり、世の中の関心の高さが窺える。

 ベインがグローバルで2023年4月に実施した企業経営者向けのアンケートによると、実に3人に2人が、今後12~18か月間の自社におけるIT投資の優先項目として生成AIを挙げた。生成AIの登場により、企業経営は転換点にあるといえる。誰もが安価に使える高性能のAIモデルが普及し、AI利用におけるコスト面でのハードルが圧倒的に下がった。コスト面に加え、テーラーメイドされた回答、対応を、AIを活用して顧客や従業員一人ひとりに提供することが可能になったのだ。

 従来は専門性や高い芸術性、創造性が求められるような分野においても、変化が起こりつつある。AIの創造性が向上したことで、多くの知的労働分野へのAI活用が加速するだろう。また、多くのハイテク企業によるAI分野への資本投下、技術競争が激化したことで、実用に耐えうる精度や安全性が整備されつつある。黎明期における現在では、まだ生成AIの持つ可能性のほんの一部が使われている状況にすぎないが、今後1、2年で生成AIが普及期を迎えると社会に与える影響は計り知れない。

 企業経営の観点からは、生成AIの登場により長年築き上げてきた経営を行ううえでの「前提条件」のいくつかが崩れつつある。たとえば、チャットGPTに代表される汎用AIモデルに誰でもアクセスできるようになったことで、AIそのものへの技術的な参入障壁は実質的に消失し、競争優位の源泉はAIをどう業務、自社サービスに活用するか、といった独自のユースケース開発に移行しつつある。

 あらゆる産業分野においてAI技術を活用した新たな競争が幕開けした中、いち早く導入した企業は、AIから生成されるデータを活用してコンテンツやノウハウを再生成し、先行者としての優位性を指数関数的に拡大していくだろう。一方で企業には、AI活用に向けた倫理観の構築と向上が求められる。AIを活用したテスト・アンド・ラーンやデータ、リスク管理を前提とした組織、事業運営のあり方を再設計することが必要だ。今後は、汎用生成AIモデルの上で動く第三者によるアプリケーションやサービスの開発と提供が進むことが予想され、自前主義ではなく、外部ノウハウやソリューション活用がますます重要になってくる。

 次回は先行する企業における生成AIの実際の活用事例や、有望視されているユースケースについて掘り下げていきたい。