生成AIが実現している機能の6類型
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サマリー:チャットGTPのサービス開始以降、生成AIに注目が集まっている。本連載では企業が生成AIとどのように向き合うべきかを論じる。1回目は生成AIの革新性と企業経営への影響について解説する。

多様な入力形式に対応し、構造化されていないデータを構造化する

 2022年11月のチャットGPTのサービス開始以降、生成AI(人工知能)はメディアや企業経営者の最大の関心事の一つとなった。生成AIが持つ可能性への期待感の一方、個人情報の漏洩など生成AIのリスクについても論じられ、欧州の一部の国では全面的に活用を禁止にするなどの動きも出ている。

 日本においても、2023年2月にパナソニックコネクトが国内1万2500人の全従業員が使用できるチャットGPTベースの環境「ConnectGPT」導入を公表し、4月には全社版の「PX-AI」をパナソニックグループの国内全従業員に向けて展開したことを発表した。これ以外にもさまざまな業界での導入のニュースが相次いでおり、多くの企業経営者にとって、生成AI活用の検討は避けて通れない経営アジェンダの一つとなっている。

 今後の動向については現時点で不透明な部分もあるが、もはや企業が「生成AIを取り入れるか否か」を論じる時期は過ぎ、「どのように向き合い、どのように活用していくか」を検討していく段階に入ったといえる。

 2023年2月にベイン・アンド・カンパニーとオープンAIが共同で戦略的パートナーシップを発表して以降、国内外600社を超える企業からベインに問い合わせがある。現在、各社と生成AI活用についての議論を通じて、生成AIがもたらす各業界の新たな形や、企業としての活用機会であるユースケースの開発、生成AIを正しく活用するための組織のあり方について検討を進めている。

 生成AIのもたらすメリットや、そのリスクについては、すでに多くの論考が存在するが、本稿では特に企業経営に対する影響と、自社に導入するうえで検討すべき事項について、先行事例も参照しながら3回にわたる連載を通じて論じていきたい。

 初回となる本稿では、チャットGPTをはじめとする生成AIが企業経営にどのような影響をもたらすのかを概観したうえで、第2回では導入企業の活用事例を紹介し、最終回となる第3回では、各企業が導入、活用に向けて留意すべき点について解説する。

生成AIの革新性

 生成AIは、1970年代のPCや1990年代のインターネット、2000年代のスマートフォンの登場といった技術革新を上回る破壊的創造をもたらす可能性を秘めている。あらゆる業界のルールを根底からつくり変える「ゲームチェンジャー」となりうるテクノロジーといっても過言ではない。生成AIは、従来のAIと何が異なり革新的なのか。なぜ世界的に注目を集めているのかについて、あらためて簡単におさらいをしておく。

 AIの歴史を振り返ると、60年から70年前までに遡ることになるが、特に過去5年間で大きな革新を遂げた。それは、コンピュータの演算処理性能の急激な向上と、コストの低下による。エヌビディアの報告によると、AIモデルが取り扱えるパラメータ数は、2018年の1億から毎年10倍に近いペースで拡大しており、2022年には数千億に達している。また、エコノミストの報道によると、AIモデルの文章認識や画像認識といった特定領域に関する相対的パフォーマンスは、2015年には人間を超えてなお更なる進化を続けている。

 では、2011年にサービスを開始したIBMのワトソン(Watson)などの従来のAIモデルと、OpenAI (オープンAI)のGPTに代表される生成AIとの違いは何か。それは、従来のAIモデルが、ルールに基づくモデルとして分析、予測、分類、翻訳といった特定の目的での使用を前提に設計されているのに対し、新たな生成AIは、自然言語への理解に基づく汎用的な用途に向けて設計されている点が挙げられる。

 従来のAIモデルでは、性能を規定するパラメータ数の限界もあり、インターネット上に存在するデータのごく一部、およそ1億~3億語を学習データとして利用し、パラメータ数も限られていたのに対し、最新の生成AIでは、インターネット上に存在する無数の情報を学習データとし、多数のパラメータを活用したものとなっている。

 また、限られた言語に基づいている従来のAIモデルに対し、生成AIは基本的に複数言語を対象としており、GPT-4は実に100言語に対応している。従来のモデルでは特定のタスクに対応するためには追加で1万種類以上の教師データによる学習が必要であったのに対し、無数のパラメータを活用して学習済みの生成AIでは、通常100未満の少ない教師データで効率的な学習が可能となり、かつ専門的なタスクへの対応も可能となった。

図表1 AIにおける生成AIの位置づけ 拡大する