2. ファスト・フォロワー企業
生成AI活用に取り組む意思はあるものの、自社のケイパビリティや事業特性などから、必ずしもビジョナリー企業を現時点では目指すことができない企業も多い。まずは生成AIを活用した汎用的な業務改善から取り組みを始めている企業がファスト・フォロワーに該当する。
ベインが国内外の多くの企業との生成AI活用に向けた議論を進めるなかで、有望なユースケースが明らかになりつつある。多くの企業にとって取り組みやすく、大きな効果が期待できるユースケースとして、カスタマーサービスAIと高度な情報検索サポートAIの2つをご紹介したい。
カスタマーサービスAI
コールセンターやチャットでの顧客からの問い合わせ対応を生成AIによって自動化するソリューションである。コールセンターの自動音声ガイダンスや、チャットボット自体はすでにありふれたサービスであり、誰しも一度は体験したことがあるだろう。しかしAIの要領を得ない、あるいは融通の利かない回答に愛想を尽かしてしまった方も多いのではないだろうか。
生成AIを用いたカスタマーサービスAIでは、事前に想定質問と回答を用意せずとも、参照すべきデータベースを与えるだけで、顧客や顧客対応をしているオペレーターからの質問に適切な回答をすることができる。既存のサービスでは難しかった曖昧な質問に対する回答や、文脈を踏まえたやり取りも可能である。また、顧客情報を用いたパーソナライズを行うことで、一人ひとりに合わせたメッセージを送ることもでき、顧客の体験価値向上につながる。このように生成AIを用いたカスタマーサービスAIの本質的な価値は、単なる顧客接点サービスの業務効率化ではなく、顧客の体験価値の向上につながるという点にある。グローバルに展開するある大手通信会社は、すでにコールセンターにおける生成AI活用の実証実験を開始している。
高度な情報検索サポートAI
自社のさまざまなデータベースから適切な情報を取得し、希望する形式で出力するソリューションである。優れたデータ管理の仕組みを持っていない一般的な企業は、長年蓄積した社内の知見は往々にしてワードやエクセルファイル、画像、PDFなど、さまざまな形式で散在しており、利活用に課題があった。こうした構造化されていない多様な形式のデータを一括で扱うことができるのが、生成AIの特徴である。
製薬業界や製造業など、開発、設計における専門性が高く、膨大な情報を扱う業界においては、論文検索や自社データベースの検索などが具体的なユースケースとして挙げられる。求められる正確性に応じて、AIの回答の精度をチェックする仕組みは必要だが、リサーチ業務や研究開発など付加価値の高い業務における大幅な生産性改善が期待できる有力なユースケースである。ベイン社内においてもオープンAIとの共同プロジェクトとして、生成AIを用いた自社データベースの検索システムの開発に取り組んでいる。
日本においても、すでにこれまで多くの大企業が、チャットGPTの導入を公表している。いち早く導入を公表したパナソニックコネクト(のちにパナソニックホールディングス全体に展開)を皮切りに、三井住友フィナンシャルグループ、東京海上日動火災保険、大和証券、ベネッセホールディングス、日清食品ホールディングスなど、業界問わず数多くの企業が自社専用GPTの導入に踏み切った(各社のプレスリリースに基づく)。機能面としては汎用的なチャットGPTを自社のセキュア環境下で使用したり、プロンプト作成のサポート機能を追加したりしたものが多く、実際の業務における有効な活用シーンを探っている段階だ。メール作成や翻訳など、繰り返し発生する日常業務の効率化はただちに効果が期待できる領域である。
3. 様子見企業
生成AIが話題になっていることは認知しており、自社内でも活用の余地があるのではないか、と考えているものの、現時点では具体的な活用方法の検討を行っていない企業が該当する。業界における生成AIの動向を見極めてから、活用の是非を慎重に判断するという姿勢であり、現時点では大半の企業はこの段階に留まっている。
企業によっては、生成AIの利用についてのリスクの評価も十分にできていないため、チャットGPTなどの生成AIを用いたサービスの社内利用は原則禁止として、リスクの最小化を図る動きも見られる。
注意しなければならないのが、企業として生成AIの利用を禁じていても、従業員が無断で一般公開されているAPIに社内の機密情報を含む情報を入力してしまうことである。昨今のニュースやSNSでの生成AI関連の投稿を通じて、生成AIの利便性は広く認知されており、多くの人が日常生活に取り込み始め、その可能性を実感し始めている。
オープンAIを含む汎用生成AIモデルの提供元が用意する企業向け環境や、マイクロソフトのアジュール(Azure)環境で活用する分には、セキュリティ対策も成されている。こうした環境は、一般向けに公開されている環境よりも格段にセキュアな環境であるが、従業員が個人のPCを使って一般向けの環境に機密情報を含む入力をしてしまうと、企業としては管理、監視もできず、情報漏洩のリスクは極めて高い。
これまでに国内外で起こっている情報漏洩の事案の多くが、従業員個人がこうしたリスクやセキュリティに対する正しい知識や倫理観を持たずに、個人的に使用してしまったために起こったものである。このような情報漏洩のリスクは生成AIに限ったことではなく、インターネット全般に言える話だが、新しいサービスである生成AIに対しては従業員の理解度もまちまちであるため、事故を未然に防ぐためにもリテラシー向上に向けた社内教育、周知を徹底していくことが企業の責任として求められる。
自社固有のアセットとの組み合わせが鍵
これまでに見てきた生成AIの活用事例からも分かるように、競争力につながる形で生成AIの活用を行っている企業は、生成AIの特性や得手不得手を十分に理解したうえで、生成AIが最も得意とするソリューションと自社固有のアセット(データ、ケイパビリティ、ブランドなど)を組み合わせることで、革新的なサービスの提供を模索している。
最終回となる次回では、こうした先進的な企業の活用事例を踏まえ、これから企業はどのように生成AIを活用すればよいのか、生成AIの活用に向けて企業に求められる要素について解説する。