シリコンバレー銀行の破綻に学ぶ、正しいリスク管理の方法
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サマリー:シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻から、我々は何を学ぶべきだろうか。本稿ではSVBで十分行われていなかった5つの取り組みを解説する。

SVBでまったく機能しなかった3つの防衛線

 また起きてしまった。。銀行には最高のリスク管理体制があるはずだ。それなのに、シリコンバレーバンク(SVB)の安全対策は(どのようなものであったにせよ)、その破綻を防ぐことができず、400億ドル以上の株主価値が失われ、預金者を保護するために政府は前例のない介入を余儀なくされた。

 銀行は、リスク管理とガバナンスのために「3つの防衛線」と呼ばれるモデルを採用している。第1の防衛線は現業部門のリスク管理だ。SVBの場合、経理責任者やCFO、CEOが含まれるだろう。その全員が、どういうわけか収益を0.5%増やすために、銀行の命取りとなるようなデュレーションリスクを引き受けることを決断した。収益を押し上げるために、長期米国債や住宅ローン担保証券(MBS)に投資したのだが、それは同行の預金資産との間に、デュレーション(平均残存期間)と流動性の面における、大幅なミスマッチを生み出した。

 第2の防衛線は、CRO(最高リスク責任者)を中心とする専門部隊によるリスク管理だ。会社の業務を監視し、継続的なモニタリングを行うことで、リスクにさらされている金融資産残高が適切な範囲内に収まるようにする。第3の防衛線は、内部監査部門によるリスク管理だ。そして究極的には、取締役会が銀行全体の安全性と健全性について責任を負う。

 こうしたリスク管理、監視機能のいずれか一つでもしっかりしていれば、SVBの破綻は防げた可能性があるし、防げたはずだ。ところが、そのすべてが機能せず、デジタル時代初の取り付け騒ぎが起こり、米国史上2番目に大きな銀行破綻がもたらされた。

 筆者は、上場企業や未上場企業の元CROとして取締役を務めた経験があり(取締役会のリスク委員会や監査委員会の委員長を務めたこともある)、回避できたように見えるSVBの破綻を残念に、そして悲しく思っている。何が間違っていたのか、まだ答えが見つかっていない問題は何か、そして今後どのように改善していけばよいのか。

 第1に、銀行は、適切なスキルとリソースを持つだけでなく、十分な独立性と権限を持つCROが必要だ。SVBは、巨額の投資損失が膨らんだ重要な時期である2022年の大半の期間、専任のCROがいなかった。前CROが退任したのは2022年4月で、新CROが指名されたのは2023年1月。この間の8カ月間は、誰がリスク管理を担っていたのか。

 第2に、銀行の取締役会には、どの程度リスクを取るか決定し、報告を評価し、コンプライアンスを確保するといった監視機能を担うリスク委員会が必要だ。SVBの取締役会には6つの委員会があったが、リスク委員会は2022年に唯一、委員長がいない委員会だった。しかも、リスク管理の十分な経験がある委員は一人もいなかった。これは、JPモルガンが、「ロンドンのクジラ鯨」事件(訳注:同社のロンドン支社に勤務するトレーダーが62億ドルもの損失を出すまで放置されていた事件)で受けた批判と同じだ。

 監査委員会の場合、財務担当委員が一定の要件を満たしていることが求められるが、リスク委員会に属する取締役にはそうした条件がない。関連する経験としてはCRO、最高信用責任者、最高コンプライアンス責任者、またはこれらに相当する役職があるだろう。

 SVBは決定的に重要な時期に、CROもリスク委員会の委員長もいなかった。規制当局は、総資産500億ドル以上の銀行には、CROとリスク委員会の設置を義務づけている。SVBの総資産は2000億ドルを超えていた。そのリスクガバナンス体制はどうなっていたのか。