第3に、銀行は分析モデルを駆使して、あらゆる戦略的リスク、財務リスク、業務運営リスクを評価し、それに沿った対応措置を講じる必要がある。SVBにこうしたモデルがあれば、偏りのあるビジネスモデルや預金基盤がもたらす戦略的リスクに赤信号が灯ったはずだ。また、こうしたモデルがあれば、デュレーションと流動性の両方において、資産と負債の膨大なミスマッチがあったことが定量化されていたに違いな
たとえば、2021年末のSVBのリスクモデルでは、金利が200ベーシスポイント上昇した場合、同行の経済価値(EVE)は57億ドル減少することを示していた。前年よりも332%も増えた格好だ。米連邦準備理事会(FRB)は2022年に425ベーシスポイントの利上げを実施したから、SVBの投資損失は150億ドルの有形自己資本を吹き飛ばした。これほど急速な利上げは誰も予想していなかったという意見もあるかもしれない。だが、FRBはインフレ退治のための利上げを繰り返し示唆していた。それなのにSVBは、多くの銀行の中でも異例ともいえるリスク特性を維持し続けた。SVBは、どのくらいの戦略リスクと財務リスクを取るつもりだったのか。
第4に、SVBには当局にリスク開示を行う義務があった。金利リスクを含む市場リスクの開示でポイントになるのは、米証券取引委員会(SEC)に提出する年次報告書(10-K)の項目7Aだ。ここでは、金利変動が純金利収入と現行の経済価値に与える影響に関する情報を開示しなければならない。
SVBは2021年の10-Kで、利上げが行われれば金利収入は増えるが、経済価値は減少する(つまり、短期的にはプラスになるが長期的には打撃を被る)ことを開示していた。ところが驚くべきことに、2022年の10-Kでは、利上げが収益にプラスになるとしか書いていない。利上げが株価に与える影響の定量分析は省かれていたのだ。なぜ監査委員会と外部監査人は、市場感応度に関する情報の省略を認めたのか。
最後に、政策立案者らは、銀行が規制要件を満たさないなら責任を問う必要がある。SVBは、FRB、米連邦預金保険公社(FDIC)、SEC、消費者金融保護局(CFPB)をはじめとする当局の規制を受けていた。
2008年の世界金融危機と、ドッド・フランク法(金融機関に高リスクの自己勘定取引を禁じ、
2018年の法律で、中堅銀行についてはストレステストの実施要件が緩和されたが、FRBは依然として総資産1000億ドル以上の銀行にはこれを適用する権限があった。SVBの突然の破綻は、銀行の規制と監督の適切性について何を物語っているか。
SVBでなぜ、どのような問題が起こっていたのかについては、まだ不透明な部分が多いものの、少なくとも、問うべき正しい質問はわかっている。これらの質問は、強力で独立したCROの必要性、適切な資質のある取締役がリスク委員会のメンバーになる必要性、引き受けるリスクレベルと軽減戦略、適切なリスク開示、そして有効な規制当局の監視の必要性を浮き彫りにするだろう。
今後、SVBの「検死報告」で、これらの疑問の答えが明らかになっていくなかで、他の銀行も自問する必要があるだろう。こうした問いが、社内の取締役会や経営会議で提起されるのと、
"How Banks Can Finally Get Risk Management Right," HBR.org, April 28, 2023.