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SaaS企業が解約を免れるための3つの戦略
2023年の1~4月、有名テクノロジー企業は合わせて17万人近くをレイオフした。景気後退の衝撃を次に受けるのは、これら有名企業を支えるプロダクトやサービスを提供するB2B(法人向け)のテックベンダーだ。更新時期を迎えたサブスクリプション契約は、その必要性が厳しくチェックされるようになり、困難な時期を迎えるだろう。大手ほど懐に余裕がない、中堅企業を顧客している場合は特に影響を受ける。
景気がよい時は、多くのB2Bプロダクトは不可欠と見なされる。だが、2023年は、多くの企業の野心や業績予測が下方修正され、目標は見直されており、かつての「不可欠」という評価も揺らいでいる。事業目標の変化を受け、プロダクトの価値が慎重に再評価されている。
もしあなたが、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)のベンダーであれば、積極的な値引きや、大幅なコスト削減を検討するかもしれない。だが、ブランドが確立されていない中堅企業がこのアプローチを取れば、長期的には転落の一途をたどるおそれがある。
筆者は、サブスクリプションビジネスのユーザー維持を支援する企業チャーンゼロのCEOとして、中堅ベンダーにとって正しいアプローチは、顧客が必要とする価値を実現し、顧客が直面する新しい課題を解決するのを助けることで「はがれにくい」会社になることだと考えている。
絶好調の時でも、解約リスクがある顧客をつなぎ留めるのは大変だ。リスクが幅広く存在し、顧客の感情が個人的にも組織的にも高ぶっている時はなおさらだ。
そこで顧客をつなぎ留める3つの戦略を紹介しよう。これをパートナー精神と共感を持って実行し、多くのハードワークと、少しばかりのアドリブを加えれば、あなたの会社の成長を左右する顧客をさらに維持できるだろう。
目標を修正した顧客のコーチになる
シリコンバレーバンク(SVB)の取り付け騒ぎが起きた週末、筆者は、SVBを利用している顧客のダメージ軽減プランを考えていた。彼らは現金を失い、とにかく生き延びることが目標になる可能性があった。どうすれば、顧客のつなぎ留めを助けることができるだろうか。
不況の時は、銀行の取り付け騒ぎとは違い、ショックが数カ月にわたり続く。ただ、顧客の目標が契約時のものから変わる可能性があることは同じだ。こうした変化を理解し、顧客が変化に適応する中でパートナーとして振る舞うことが重要だ。そのためにはまず、担当者が顧客に質問をする必要がある。「現在の経済環境は、お客様の目標に影響を与えていますか。いずれかの目標が変わりましたか」。どの会社でもリソースに余裕がある時は、このような質問をすることはないだろう。だがいまは、この質問こそが、多くの顧客をつなぎ留めるカギとなる。
たとえば、ある顧客の当初の目標は、みずからの顧客基盤の拡大だったとしよう。しかし上記の質問をしたところ、新しい目標は、経費節減と効率改善になったとわかる。顧客の対応策を助けるチャンスだ。自社プロダクトの別の側面から価値を提供できないか。時間と経費の節約につながる自動化やAIの機能はないか。あなたの会社のプロダクトが提供する自動化やAIで、顧客が従来よりも20%、時間を節約できるのなら、顧客の忙しさを5分の1取り除けることになる。
あなたの会社も中堅ベンダーとして、顧客と同じ逆風にさらされている可能性が高いため、顧客の新たな課題や優先事項には自社のそれと重なる部分が多いことに気づくだろう。この立場をうまく活用すべきだ。自社で、すでに「よりよく、より速く、より安く」を追求しているのだから、同じ視点を顧客のニーズに当てはめよう。スピードと効率とスケールをもたらしてくれるプロダクトや機能を紹介し、顧客がそれをスピーディに採用できるよう支援する。デジタル教育や一対一のコーチングを通じて、顧客ができるだけ早くあなたの会社のプロダクトを自分で使いこなせるようにしよう。
プロダクトの活用不足に先手を打つ
米ソフトウェアマーケットプレイスのG2によると、サブスクリプションの対象となっているビジネス用ソフトウェアの30%は、遊休状態または十分活用されていない。それは恥ずべきことかもしれないが、好況時なら総じて無害だ。だがいまは、こうした過ちの影響がより大きく、より厳しく感じられている。顧客は必須ではないソフトウェアをすべて削除しようとしている。このような顧客には、契約打ち切りの行動を起こされる前に連絡を取り、独自のアクションプランを持参する必要がある。相手は不満を感じるかもしれないが、解決策を持参するベンダーには例外なく感謝するものだ。
顧客に電話をする時はいつも、担当者が顧客に共感を示すようにする。第2のディスカバリーコール(見込み客への連絡)として取り組むとよい。エンドユーザーの悩みや、顧客の懸念を理解することに努力しよう。相手の話に慎重に耳を傾け、行間を読み、解決策を提案する前にフォローアップの質問をしよう。
何が正しい解決策かは、顧客によって違うが、プロダクトの使用データを見れば、顧客のニーズを予測できる。たとえば、プロダクトにぴったりの顧客だが、導入が6週間遅れている場合、プラスアルファの導入研修やデジタル教育によって元の軌道に戻せるだろう。ただ、導入が半年も遅れているような場合、契約打ち切りを避けるためには、追加サービスや割引が必要かもしれない。不況時は、こうした穴が大きくなり、そこから這い上がるのは難しくなる。
エンドユーザーと協力して更新判断に影響を与える
たとえあなたの会社のプロダクトが十分に活用され、価値をもたらしていても、不況時は、すべてのコストにより厳しい目が向けられるため、確実に契約を更新してもらえるかどうかが不透明になる。2023年は、顧客のCFOやCEOによる契約の承認が必要になるかもしれない。このためエンドユーザーがあなたの会社のプロダクトの価値を意思決定者にさらにうまく伝える必要がある。そして、それをあなたが助ける方法は2つある。
まず、人間関係の構築と報告を怠らないことだ。あなたの会社の担当者が、顧客企業の意思決定フローを作成し、そこに影響を与えるようにエンドユーザーに働きかけ、実際に顧客に影響を与えてもらう必要がある。顧客の報告システムの設定やカスタマイズを直接手伝い、プロダクトの価値をフルに伝えてもらおう。リーダーからの厳しい質問にエンドユーザーが答えられるようコーチングをすること、あるいは、リーダーとのミーティングに参加できると申し入れよう。
次に、2023年度末までのプロダクトロードマップを見直そう。顧客企業のリーダーや意思決定者が貴重と見なす機能拡張を加速できるなら、いまがその時だ。もしあなたのプロダクトが、たとえば収益と結びついているなら、CFOのために特注ダッシュボードを作成できないか。あなたの会社のプロダクトがカスタマーサクセスチーム向けだが、偶然にも新規のビジネスチャンスを見つけたなら、顧客の営業部門トップの頭の中で、あなたの会社がトップに位置づけられるような、顧客管理(CRM)の統合はできないか。
これらの機能拡張を、意思決定者が毎日使うプラットフォームと連動するように構築しよう。平均的な企業は、88個のアプリを使用しているが、筆者の実感としても、ログインするアプリは少ないほうがよい。
どこから始めるか、ベストフィットの顧客に注力する
ここまで述べてきた顧客対応には、多大な時間とリソースが必要だ。すでに余裕がない中堅ベンダーにとっては特にそうだ。プロダクトの利用データを見る限り、すべての顧客が厳しい状況にあることを示しているなら、何よりもまず、ベストフィット(プロダクトとの適合性が最も高い)顧客に焦点を絞ろう。
過去のデータとリアルタイムのデータを照合しよう。どの業界や企業規模が、あなたの会社のプロダクトで最も大きな成果を上げる傾向があるか調べよう。現在の経営環境で最も打撃を受けているのはどの層か。顧客の健全性スコアをそれに沿ってアップデートし、データが示したところに注力しよう。リソースを均等に配分したくなるのはわかるが、成功する可能性が最も高い顧客に焦点を絞るほうが効果的だ。
ひとたびそのような顧客を見つけたら、すぐに計画を実行に移そう。アクションが遅れるほど、顧客をつなぎ留めるのは難しくなる。逆に、早く動くほど、顧客をつなぎ留めやすくなる。顧客より先にこうした問題に気づき、解決に向けて取り組むことができれば、ベンダーと顧客という関係を超えて、顧客のパートナーになれるだろう。そうなれば、顧客はあなたとの関係をつなぎ留めるために骨を折ってくれるかもしれない。
"How Mid-Market Tech Vendors Can Retain Customers During a Downturn," HBR.org, May 12, 2023.