情熱をコントロールする
情熱を抱ける仕事を見つけることは、私たちが実践すべき最初のステップにすぎない。この点を理解する必要がある。情熱を長く持続させるためには、必要に応じて休息と回復の時間を確保するため、意識的な取り組みを実践することを忘れてはならないのだ。
重要なのは、情熱に支配されるのではなく、情熱を支配すること。仕事に情熱を抱くと、より一生懸命、仕事に打ち込みたくなる。しかし、そのような行動を取る以外の選択肢もある。むしろ、ほとばしる情熱を感じているとすれば、それは、近い将来に疲弊しないために対策を講じるべきだという警告のサインと受け取るべきなのかもかもしれない。
スポーツ選手は、激しいトレーニングや試合の後、氷風呂に入ったり、体にクリームを塗ったり、マッサージを受けたりして、肉体の回復を促すことにより、怪我を防ぎ、長い目で見て最良のパフォーマンスを挙げることを目指す。同じように、強い情熱を抱いて精力的に仕事に打ち込んだ後は、感情の回復に充てる時間を積極的に確保すべきだ。筆者らの研究によると、1日多く休みを取るだけでも、しばらく仕事のことを忘れて過ごすことにより、次の日にはいつもより強い情熱を持って仕事に臨むことができる。
職種がスポーツ選手だろうとアナリストだろうと、全力疾走することは、情熱を生かして、目標に向けて前進するための有効な方法の一つだ。しかし、それは、長い目で見れば持続可能なアプローチとはいえない。その点、回復の時間を設ければ、極めて重要な休息の機会が得られるだけでなく、先々にわたり情熱を高める効果も期待できる。それにより、日々の活動がより健康的で、より持続可能なものになるのだ。
より持続可能な情熱を抱けるよう後押しする
その一方で、一人ひとりの働き手ができることには限界があると理解することも重要だ。とりわけ、複数の職を持っている人や、極めて搾取的な性格の強い慣行がまかり通っている業界で働いている人。加えて、仕事とは別に、家庭でケアの役割も担っている人、そのほかの構造上の障害に直面しているために、休憩を取り、仕事以外の時間を確保することが難しい人にとって、バーンアウトに陥ることなく情熱を維持することは、極めて難しい場合がある。適切に情熱を維持することが不可能なケースもある。
たとえば、筆者らが現在進めている研究によると、男性は女性に比べて、仕事に割く時間と、仕事以外に割く時間の割り振りを柔軟に決められる場合が多い。それに対して、女性は往々にして勤務時間外に、自宅で家事や育児などの「2つ目の勤務シフト」をこなすことが期待されている。この点で、男性は女性よりも、情熱を持って仕事に打ち込んだ後に、回復のための時間を確保する自由に恵まれているといえるかもしれない。
情熱を持続させることは、経済的に安定していて、時間を柔軟に使える人だけが享受できる「贅沢」になっている場合が少なくない。そのような恵まれた状況にある人だけが、十分に休息を取り、心身を回復させて、情熱を長期にわたり維持できる場合が多いのだ。
このような不平等はさまざまな場に蔓延しており、完全に解消することは容易でない。それでも、有効なマネジメントを行えば、弊害を軽減し、働き手が情熱を抱きつつも疲弊しにくい環境をつくり出せる可能性がある。
マネジャーは、持続不可能な情熱を後押しして、働き手たちをバーンアウトに追いやるのではなく、情熱と引き換えに持ち上がる試練を乗り切るための支援をすべきだ。具体的には、一人ひとりの業務負担をマネジメントし、感情的な疲弊の度合いをモニタリングし、ワークライフバランスの確保を助けるためのシステムを築く必要がある。リモートワークの環境では、仕事の時間と私生活の時間の境界線がますます曖昧になっており、ワークライフバランスの重要性がいっそう大きくなっている。
本稿でここまで述べてきたような考え方に、反発を感じるマネジャーもいるかもしれない。情熱を採用基準の一つと明確に位置づけている組織は多い。一部には、過剰な業務負担を課すことを正当化する口実として、働き手の情熱を利用している組織もある。
このようなやり方は、働き手の疲弊に拍車を掛ける。筆者らの研究からも明らかなように、情熱をほかのあらゆる要素よりも重んじることは非効率で、有害でもある。マネジャーは、長期の視点で物事を見るべきだ。目先の情熱を持たせるだけでなく、働き手が長く情熱を持ち続けられるよう、サポートすることを考えたほうがよい。
「passion」という英単語の語源は、苦しみを意味するラテン語「pati」だ。また、ドイツ語で情熱を意味する「Leidenschaft」という単語の字面どおりの意味は、おおざっぱに言えば「逆境を耐える能力」である。
情熱は、キャリアを充実させるためのカギを握る要素と位置づけられることが多いが、語源をたどれば明らかなように、そこには秘められた負の側面がついて回る可能性がある。実際、情熱は私たちを騙して、仕事を仕事でないように感じさせることにより、私たちのエネルギーを、そして情熱そのものを枯渇させる。
苦痛と逆境を耐える能力は、成功するために欠かせない。しかし、耐えることには代償が伴うのだと理解すること、そして、情熱が原因でバーンアウトに陥らないように、自分自身とチームのメンバーを守るための措置を講じることも、耐えることと同じくらい、成功のためには欠かせないのだ。
"Don't Let Passion Lead to Burnout on Your Team," HBR.org, May 17, 2023.