情熱の包括的な定義を受け入れる

 従業員はハングリーになりたいわけではない。満たされたいのだ。閃きに満ちた従業員が閃きに満ちた企業をつくる。従業員には思うがままに情熱を定義してもらい、多種多様な状況に合ったサポートができるように職場を調整しよう。

 つまり、野心や夢についてのあなた自身の考えを拡張することが必要となる。マラソンのトレーニングのために早めに退社する生産的な従業員と、デスクにしがみついてバーンアウトする従業員とでは、あなたはどちらの人材がほしいだろうか。現在の仕事を心から愛するがために昇進を辞退する人を、あなたはどう判断するだろうか。

 本人にとって有効な、成功モデルを更新している人に罰を与えるのはやめよう。むしろリーダーには、従業員が自身の目的を発見することを促す役割がある。

「私はそうしなくてはならなかった」というメンタリティを捨てる

 出世したほとんどの人にとって、職業としての仕事にはお決まりの流れがあった。初期は歯を食いしばって耐え、生活の大部分を犠牲にし、やがて自分の時間をある程度、コントロールできるようになる、というものだ。

 私たちはサンクコストの誤謬に陥りやすい。筆者自身も同様で、誰もが同じように下積みを経験すべきだと思っていた。しかし、それはほかの選択肢を可能にする新しいテクノロジーや規範が登場する前の話である。たしかに、あなたはそうせざるをえなかったが、それは本当に最高の仕事を引き出す最善の方法だったのだろうか。筆者が1週間休みなく午後11時まで働いていた頃、創造力が泉のように湧き出ることはなかった。

 仕事に新しい変化が生じるたびに、既存の規範に別れを告げることが必要になる。あなたの経験の次元に従業員を引きずり込むのではなく、どうすればみんなを新しい次元の経験へと引き上げられるかを考えよう。

パフォーマンスと時間を切り離す

 筆者のクライアントの多くは、ハイブリッドチームやリモートチームがどれくらい仕事をしているのか、わからないことがフラストレーションになると訴える。筆者は「これまでだって、わからなかったのですよ」と答える。オフィスであなたの目の前で仕事をしていた時も、従業員は多くの時間を無駄にしていた。時間を無駄にしたければ、どこにいようが、そうするものだ。

 測定するのはパフォーマンスとし、時間に固執するのはやめたほうがはるかにうまくいく。マッキンゼーの調査が示すように、従業員は自分で自分の働き方をコントロールしたいのである。その代わり、従業員には結果を出すことが求められる。それこそが雇用契約だ。それを公の合意にできたら、どうなるかを想像してほしい。

 人によっては、「デスクに向かう」メンタリティが深く染みついたあまり、フレキシブルな働き方が可能であり、しかもよい結果を生み出せそうであっても、自分に制約を課してしまうことがある。そういう人は一挙一動を空から見張る監視装置のような上司でもいるかのように行動している。しかし、一人ひとりに合った労働環境をつくるうえで、マネジャーが従業員に高い自由度を与えれば、それだけ従業員はうしろめたさを感じることもなくなり、よい仕事をすることに集中できるだろう。

ネジを締めるのではなく、緩める

 私たちは、コントロールできていないと感じると、人やプロセスをいちいち細かいところまで管理しようとしがちだ。景気後退のプレッシャーが、それに拍車をかける。しかし、従業員のコンピューターに追跡ソフトを搭載したところで、従業員がよりよい仕事をするわけではないし、最近のイーロン・マスクやメタ・プラットフォームズCEOのマーク・ザッカーバーグのように、さらに働かなければクビだと脅しても奏功しない。

 恐怖によって長期的に有効なモチベーションがもたらされたためしはない。否定的な感情がさらに強まるだけだ。職を維持できるかどうかが心配になると、従業員は身を守ろうとして縮こまり、優れたものを生み出すためにリスクを取ろうとしなくなる。

 たしかに、生産性は低下しており、その理由はなかなか説明がつかない。とはいえ、従業員の自律性が原因ということはありえない。なぜなら、多くのオフィスが完全に閉鎖された2020年と2021年には、生産性は大きく向上していたからである。

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 15年にわたるコーチングの経験から、筆者が学んだことがある。人が最も生産的になるのは、仕事の内容と生き方についてモチベーションを感じている時だ。その両方が、成長するために必要である。たとえ市場がこのまま冷え込んでも、これまでの方向性を変えず、従業員の自律性は減らすどころかより多く与えるとよい。

 従業員側は企業が退行ともいえる行動を取るのではと身構えているだろうが、サステナブルに前進し続けるモデルをつくることは可能だ。従業員により多くの仕事に取り組んでもらい、定着を促進し、モチベーションを高めることができる。リーダーがそれぞれの従業員にとって大切なものの価値を認めていることを示せば、豊かな情熱とパーパスのあるチームができて企業全体に利益をもたらすだろう。

 情熱はいつの日も、ハングリーであること以上に、永続性のある成果を生み出すものなのである。


"How to Motivate Employees When Their Priorities Have Changed," HBR.org, May 11, 2023.