1. 外部の視点を活用する
昨今は、企業が自社のステークホルダー全体と個々のステークホルダー集団のためにどれくらい価値をつくり出せているかを計測するサービスがいくつも登場している。ドラッカー・インスティテュート、ジャスト・キャピタル、エンバンクメント・プロジェクト・フォー・インクルーシブ・キャピタリズムなどの独立系の評価機関は、さまざまなステークホルダーの利害の複雑な関係について高度な分析を行っている。
2. 社外の評価機関による評価だけでよしとしない
これらの社外の組織は評価を下すに当たり、あらゆる会社のあらゆるステークホルダーをすべて同じ比重で考えており、しかも公開データしか参考にできない。しかし、細かい事情はそれぞれの企業によって異なる。そこで、外部の評価だけでよしとせず、社内のインサイトも活用して自社のステークホルダー同士の相互関係を理解する必要がある。
そして、その理解に基づいて、明確なステークホルダー戦略を組み立てることが重要だ。自社のパーパスをはっきりさせ、そのパーパスの実現に向けた進捗状況を評価する基準を定め、ステークホルダーの優先順位を決め、ステークホルダー同士の複雑な相互関係を念頭に入れた行動計画をつくるのである。この戦略で目指すべきなのは、すべてのステークホルダーの間に相互の利益を生み出し、システム全体にとっての価値の総量を増やすことだ。
3. 新しい戦略を継続する
そのために、リーダーが取ることのできる行動がいくつかある。
ステークホルダー戦略を受け入れる文化を育む
取締役会のメンバーを教育したり、必要であれば取締役会のメンバーを入れ替えて、さまざまなステークホルダー集団を代表するように変更したりする。また、マネジャーの評価指標と報酬決定の方法も変更する。
新しい組織構造とプロセスを設計する
小規模な中核グループを確立して、そのチームにステークホルダー戦略の主導役を担わせ、その戦略の成果を把握させる。そして、部署の垣根を越えたアジャイルチームをつくり、さまざまなステークホルダー集団の間に相互の利益を生み出す方法を模索させる。たとえば、テクノロジーの専門家の力を借りて、顧客のためにプロダクトを改良し、同時に従業員の退屈な仕事や危険な仕事を減らすことを目指す、といった具合だ。
導入する新しいプロセスとしては、たとえば、
企業幹部たちは、ステークホルダー戦略が利他的なものでもなければ、現実離れしたものでもないことに気づき始めている。適切に設計して実行に移せば、それによりあらゆるステークホルダーにとっての価値を増やすことは可能なのだ。もちろん、そのステークホルダーの中には株主も含まれる。
利益の最大化を徹底して重んじる人たちも、ステークホルダー戦略に転換しつつある。英国の小売り企業ネクストは、株主価値を最大化させると同時に、非財務面でのステークホルダーにとっての価値を増やすという、2つの目標を同時に掲げている。こうしたアプローチを「啓蒙されたステークホルダー戦略」と呼ぶ人もいるが、呼び名はともかく、ステークホルダー戦略は好ましい方向への有意義な一歩になる。
そして、そのような歩みを一歩ずつ続けることを通じて、ステークホルダー戦略が現実離れした高尚な願望などではないという証拠が積み重なり、確信も強まっていく。そうした戦略を追求することがビジネスという観点でも理にかなっているとわかってくるのである。
*英語版編集部注:本稿の英語版記事の内容は、最初に掲載された後、5月24日に更新された。