筆者が職場で自閉症の息子の子育てについて話すようになるまで、それから約3年かかった。それでも口を開いたのは、自分はこうした話を普通にできるようにし、同じ経験をする人がサポートを得られる基盤をつくり出すべき立場にあると気づいたからだ。実際に声を上げてみると、多くの人々から自身の体験を打ち明けられて驚いた。

 息子は現在8歳だが、重度の睡眠障害(自閉症によくある)のために自閉症関連の行動や併発症状がひどくなる期間がしばしばある。そのため、年下の弟妹をはじめとして家族全員の睡眠が乱れる。筆者も疲労困憊し、勤務中にストレスで潰れそうになる。いつ訪れるともわからないこの期間は、筆者のエネルギーとウェルビーイング、時には職場での生産性を損なっている。

 当初、筆者は無理を通して精根尽き果ててしまった。睡眠退行の期間には、それがひどくなるばかりだった。しかし、自分のパフォーマンスへの影響に対処して最小限に抑えるため、職場で3つのことを始めた。(1)可能な場合は、ただちにミーティングのスケジュールを再調整する、(2)ミーティングの合い間や、執筆やデータ分析など強い集中力を必要とする仕事の途中で休憩を取る、(3)自分の経験をオープンにする。

 周囲の人々は息子の状況を完全に理解することはできなくても、睡眠の問題には共感できるということがわかった。それが会話の入り口になった。睡眠退行の期間は毎日ではなく、無限に続くものでもないことはわかっている。また、働き方を変えることによって、個人的なコミットメントと仕事のコミットメントのバランスを取れることにも気づいた。すると、この期間の息子のニーズを、よりしっかりと観察できるようになった。

 こうしたことを鑑みると、筆者らのような親にとって、病気休暇は自身のメンタルヘルスとウェルビーイングを維持するためにあるのかもしれない。

 私たちは子どもの権利を守るために、唯一にして最大の弁護者にならなければならないことが多い。子どもに注ぐエネルギーを保ち、彼らに存在の機会を与えようとしない組織的な障壁と戦わなくてはならない。「戦いで使用する鎧」にすき間をつくらないよう、意識的にセルフケアをし、自分にもエネルギーを注ぐ必要があるのだ。

 実際の生活においては、自分自身と子どものためにセラピストの元へ通えるだけの経済的支援が不可欠だ。こうしたサポートに保険が適用されるとは限らない。もっとも保険に入っていればの話だが。サポートがなければ、多くの場合、親は自力で何とかするしかなく、ほとんどの人には想像がつかないような過酷な状況を忍ばなければならない。おそらく彼らは、あなたのすぐそばにいて一緒に仕事をし、協力し、毎日ジョークを交わしている人々だ。彼らは職場でパフォーマンスが落ちたと思われないように、黙々と奮闘することを覚えたのである。

 企業が認識しているよりも、サポートはずっと重要である。組織は子育ての初期から、こうした親に追加のサポートを提供すべきで、信頼できる情報源を用いてニューロダイバーシティについての正確な情報提供なども行う必要がある。説明会や講演、従業員リソースグループ(ERG)などの形を取ることもできるだろう。これはニューロダイバースな子どもの親だけではなく、従業員の中のニューロダイバースな人材へのサポートにもなり、ニューロダイバーシティについて、ほかの従業員を教育する機会にもなる。

基本的な資産へのサポート

 よりインクルーシブになることは、ニューロダイバースな子どもの子育てに付随する貴重な学びである。自分たちとは違う人々を「あの人たち」と分類したり、特定の人々を「変わっている」とか「奇妙」と言ったりすることは簡単だ。しかし、ニューロダイバースな子どもを世話していると、強みと見なすことができる行動や態度がすぐにわかるようになり、一般に弱さや障がいと見なされるものでも、サポートさえあれば多様な能力と見なせることもわかってくる。

 また、奇異さや特異性に目を惑わされずに解決策へと進めるようになる。たとえば、自閉症の人はパターン認識が得意なことが多い。また、しばしばデータ分析に秀でている。ただし発話や認知の遅れのため、あるいは不安や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの併存症状のために、面接は不得意なことがある。こうしたことにすぐに気づくニューロダイバースな子どもの親は、最高の、最も生産的なリーダーになれるかもしれない。

 従業員全体が徐々にニューロダイバーシティを認めるようになってきたいま、こうした親たちは、なろうと思えば、ニューロダイバースな従業員と一般的な従業員のかけ橋になることができるし、さらに彼らが活躍し組織が繁栄できるように、ニューロダイバーシティにまつわる手続きやシステムやプログラムを構築するのに、このうえなく適任である。

 時間については、親本人が決定したスケジュールが重要である。スケジュールはある程度、事前に計画できるが、人によっては勤務時間に変動の幅を持たせることが必要かもしれない。普通とは異なる時間のミーティングのほうがやりやすいこともある。たとえば午後9時には子どもが寝ているなら、午後9時30分開始のミーティングのほうが午後5時の会議よりもストレスが少ない。

 精神的サポートという意味では、適正な給与、メンタルヘルスのサービス、保育の支援など、経済的リソースも含めるべきである一方、ほかの従業員が歩み寄ってくれることも必要である。同僚から批判ではなく、共感と好奇心が寄せられることは、ニューロダイバースな子どもの親が安心して仕事に取り組むに当たって大きな役割を果たす。

 子どもを持つ同僚が役に立ちたいと思って自分が体験したエピソードを話してくれることがあるが、実のところ、知識不足が露呈することがよくある。自分の大変な子育て体験を伝えるのがよいとは限らないということだ。むしろ大切なのは、ニューロダイバースな子どもを育てる親の体験に好奇心と開かれた姿勢を持つことである。研修も役に立つ。もちろん、あまり語りたがらない親もいるだろうし、それは尊重されなくてはならない。多くの場合、彼らはまだ自分の中で消化しようとしている最中なのだ。

 慈善団体への支援も適切な努力の形ではあるが、「オーティズム・スピークス」のような問題のある団体は避けてほしい。ニューロダイバースな人々を支援する非営利団体を検討する時は、対象となる集団の権利のためにどのような活動が行われているか、よく調べよう。リーダーシップや意思決定に当事者が含まれているかどうか。不安を煽っていないか、理解を促進しているか。問題のある団体と協調することは、何もしないというメッセ―ジを送っているのと同じか、むしろ害になることさえある。

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 ニューロダイバースな子どもを持つ親へのサポートは、これまで企業が取り組んできた支援システムとは異なるが、大掛かりな援助というわけでもない。こうした親たちは、時間が経つにつれて初めてわかるような、極めて貴重なスキルを持っている。彼らをサポートすることは、特にニューロダイバーシティを受け入れ、自分がそうであると認める従業員が増え始めている現在、道徳的にも経済的にも必須の課題である。

 このことに限らず、多様な背景を持つ従業員の声に耳を傾け、彼らのフィードバックや経験を取り込み、組織を進化させ続けることは、組織と社会全体に必ず大きな利益をもたらす。そして、こうした話し合いが行き詰まりそうになった時、筆者らのような親がきっとお役に立てるだろう。


"How to Support Parents of Neurodivergent Children at Work," HBR.org, May 30, 2023.