異なるタイプの頭脳が協力できる企業は成功を収められる
Illustration by Lalalimola
サマリー:企業リーダーは従業員に多様な思考タイプがあることを認識し、異なるタイプの頭脳を持つ人々が協力できるよう促すべきだ。本稿では思考タイプとして、言語思考型と視覚思考型が存在することを解説する。その中でも視... もっと見る覚思考型には、物体視覚化型と空間視覚化型があり、それぞれが違ったアプローチで問題解決に貢献する。両者の協力によって成功を収めた例として、アップルコンピューターにおけるスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの連携を挙げる。 閉じる

企業が多様な頭脳を受け入れることの恩恵

 産業と学問の両方の領域で50年以上活動し、自閉症の当事者でもある筆者は、大企業のDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を担当するマネジャーから、しばしば講演を依頼される。依頼元となる企業の業種は、鉄鋼、製薬、コンピューター、消費財、畜産業、運輸、ソーシャルメディアなど、実に多岐にわたる。経営幹部が聞いてくるのは、いつも同じ基本的な質問だ。より多様な人材を包摂するには何をする必要があるのか、というものだ。

 企業が人種、ジェンダーの公正、障がいに関して、より多様な従業員を受け入れる努力をしていることは、大きな前進である。今度は、その戦略をさまざまなタイプの頭脳に適用すべきだ。そうすれば、創造性が高まり、問題解決が促進され、より一体感のある職場が形成されるだろう。

職場には多様な思考タイプの人がいる

 まずリーダーは、多様な思考タイプが存在することを認識すべきだ。そして多様な頭脳とそれに付随するスキルを通して、すべての人が恩恵を受けることの重要性を、深く理解する必要がある。ごく基本的なことに聞こえるかもしれないが、言語思考型が優位に立つこの社会では、視覚思考型の人々は取り残されがちなのだ。

 筆者は極度の視覚思考型で、写真のようにリアルな画像やティックトックのような短い動画によって思考が成り立っている。筆者の視覚的記憶は、かつて訪れた場所の記憶に由来する映像や、これまでに見た映画や写真、文章を絵に置き換えたものなどで満ちている。たとえば、食肉処理システムの評価を頼まれたら、これまでに見たあらゆるシステムがビデオクリップのように頭の中を流れる。筆者はそうした映像を分類し、組み合わせて新しいものをつくり出すことができる。年齢と経験を重ねながら、筆者の視覚的な「ボキャブラリー」は、言語思考型の人が言葉によって複雑な概念を学ぶのと同じように発達してきた。

 筆者のような視覚思考型の人々は、一般とは異なるやり方で情報を処理する。体験を通して問題を解決し、視覚認知を活用するのである。

 しばしば引き合いに出す話なのだが、キャリアの初期に、筆者の視覚志向が牛の行動の問題を解決する助けになったことがある。その時は、牛が突然、立ち止まって前に進もうとしなくなるので、作業が遅れて利益率も落ちるという問題が発生していた。牧畜業者はこの牛の行動を理解できず、牛を整列させるために棒でつついたり、拡声器を使ったりするなど、過激な方法を取っていた。

 筆者はこの様子を目の当たりにして、牛の視点に立つためにシュート(家畜を一列に並ばせるための囲い)に飛び込んだ。近くにいた牧場主もその他のビジネスパーソンも、筆者はばかげたことをしていると思った。しかし視覚思考型の筆者にとっては、こうすることは自明の理だった。

 すぐに筆者は業者が見逃していた小さなものに気づいた。何かの影や反射、一見、何でもなさそうな鎖やシュートの内側に垂れ下がった布切れなどが、牛の動きを鈍らせていたのだ。単純なことだが、ほかの誰も気づかなかった。筆者の目には、こうした小さな障害物がギラギラ光っているように見えた。そのように筆者の頭脳は働くのである。

 視覚思考型は、筆者のようなタイプだけではない。独自のユニークな視点とスキルを持つ、もう一つのタイプがあることがわかっている。

 それは空間を視覚化するタイプである。この区別を明らかにしたのは、シンガポール大学准教授のマリア・コジェフニコフとその研究チームである。筆者のように写真のようなリアルな画像で考えるタイプは物体視覚化型と呼ばれ、設計や機械工学、動物の扱い、そのほか実地の仕事に向いている。空間視覚化型の人は、パターンや抽象概念によって思考する傾向があり、数学やコンピューターのプログラミング、音楽のスキルに優れていることが多い。

 両者の問題解決のアプローチは、はっきりと異なる。物体視覚化型の人は、機械装置がどのように作動するかがよく見え、空間視覚化型の人は機械装置がどうすれば作動するかを計算することができる。例えて言うなら、物体視覚化型の人が電車をつくり、空間視覚化型の人が電車を走らせる。両方の思考タイプが必要なのである。