異なるタイプの頭脳の協力によって成功を収めた例が、アップルコンピュータの開発で知られるスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックのパートナーシップだろう。
ジョブズは美しく使いやすいコンピュータを思いつき、ウォズニアックはそれが実際に作動するようにした。ジョブズの伝記を執筆したウォルター・アイザックソンによると、ジョブズが求めていたのは「シームレスなユーザー体験」だった。技術者であるウォズニアックはたくさんの機能をつけたかったが、ジョブズは機能が多すぎると混乱しやすくなり、かえって使いにくくなることをわかっていた。これは芸術的な視覚的思考の人が技術志向の強いパートナーと組んで、大成功する商品を生み出した例である。
異なる思考タイプの人々が集まって、互いの異なるアプローチの価値を認めた時、大いなる進展が実現する。
組織心理学者のアニタ・ウィリアムズ・ウーリーとハーバード大学およびスタンフォード大学の研究者らは、物体視覚化型の人と空間視覚化型の人に、オンラインゲームのパックマンと同じ様式のバーチャル迷路に取り組んでもらうという実験をした。同じ思考タイプの人をペアにしたチームと、異なる思考タイプの人をペアにしたチームがつくられたが、実験の結果、混成チームのほうが同類チームよりも好成績を上げることがわかった。
混成チームでは、空間視覚化型の人がジョイスティックを動かし、物体視覚化型の人がグリーブルと呼ばれるフィギュアの破壊を担当することが多かった。同類のチームは、結論の出ない会話に多くの時間を費やしがちだった(何も解決されないまま果てしなく続く会社の会議に出たことがある人なら、ピンとくるだろう)。似たような思考をしない優秀な頭脳が集まると、非凡なイノベーションを生み出す可能性が高いことがわかったのである。
多様なタイプの思考を活用するには
まず、ビジネスリーダーや政策立案者がやるべきことは、授業でじっと座っていられない、あるいは代数のような抽象的な数学ができない視覚思考型の子どもが米国の教育制度からふるい落とされている事実について、学校に対応を促すことである。
トーマス・エジソンはクラスで最下位の劣等生で、教師から「頭が腐っている」と言われた。母親は彼を退学させ、家で教育することにした。今日なら、エジソンはADHD(注意欠如・多動性障害)と診断されたかもしれない。米国の男の子の約7人に1人がADHDを持つといわれ、彼らは教室で退屈そうにし、「混乱をもたらす」というレッテルを張られている。彼らに必要なのは何かをすることだ。
こうした生徒たちに対しては、視覚的スキルが不可欠な領域で、体験型の授業やメンタリング、インターンシップ、見習いなどを通して教育し、投資すべきである。筆者は家庭科の授業で裁縫を習ったおかげで、学芸会の衣装の型紙をつくって縫うことができた。また、産業技術の授業でいろいろな物のつくり方を学んだことで、学芸会の舞台装置を製作することができた。こうした基本的なスキルが、筆者の将来の土台づくりになったのである。
採用の慣習も変わらなくてはならない。はきはきと受け答えし、まっすぐ相手の目を見ることが重視される一般的な採用面接では、自閉症があって視覚思考型の筆者はうまくいきそうになかった。そこで仕事を得るために、筆者に代わって、ポートフォリオの図面や完成したプロジェクトの写真に「語らせる」ことにした。
筆者は言葉の説明による売り込みはできなかったが、「30秒間の感動」と名づけた視覚的プレゼンテーションによって、将来の雇用者に感銘を与えることができた。自分ではなく自分の仕事を売り込むことを学んだのである。学歴についても同じことがいえる。たとえば、筆者は獣医の道に進むために必要な数学の要件を満たせなかったが、動物との視覚的な親和性と動物の行動に対する洞察力を持っているため、いまでは獣医を訓練する立場にいる。
ビジネス界には、あらゆるタイプの多様な頭脳が必要である。多様な脳処理をする従業員が成功実現のカギを握る例が、ますます増えている。たとえば、最近の火星探査機の成功において決定的な役割を果たした企業は、イリノイ州を拠点とするフォレスト・シティ・ギアである。同社はNASAと協力して、カメラを回転させる小さなギアを製造した。火星の過酷な環境を耐え抜くには高度な正確性が求められ、それを実現するには細部に対して並外れた注意が必要だ。この仕事にうってつけの候補者は、自閉症を持つ人かもしれない。
最近、あらゆる思考タイプの人々のために雇用機会を創出する、斬新な新しい試みを目にする機会がある。たとえば、ユニークリー・エイブルド・プロジェクトの創設者兼会長のイヴァン・ローゼンバーグ博士は、カリフォルニア州サンタクラリタにあるカレッジ・オブ・ザ・キャニオンズと協力して、自閉症を持つ学生にさまざまな工場でコンピュータ制御の金属機械装置を運転する訓練を受けさせるという、ユニークなプログラムを開始した。この学生たちなら、フォレスト・シティ・ギアで働く適性があるだろう。
高度に専門化された仕事は、高度に専門化された頭脳を必要とする。こうしたプログラムで成果を上げるには、便宜を図ることがえこひいきではないことを理解しなければならない。視覚型の人も言語型の人も、すべての従業員がその人の強みに従って仕事を遂行するのである。
結論として、ビジネス界にはあらゆる思考タイプの人が必要である。互いに補完し合うスキルのある人々がチームになって仕事をすれば、大いなる成果が得られるだろう。マネジャーが、さまざまなタイプの思考が存在することに気づくことこそ、最初のステップである。
"When Great Minds Don’t Think Alike," HBR.org, May 23, 2023.